2009-05-01から1ヶ月間の記事一覧

17歳の手紙

http://blog.ihatovo.com/archives/4557 聡明で、少し早熟な高校二年生の文章を読ませていただいたところで、僕も参加。というより、旧悪を晒すことにします。高校三年生のときに書いたものです。 17歳の手紙 - BLOG STATIONはてな作文出し

『パンドラの匣』を読む前に

新潮文庫の黒い背表紙の太宰治は、今年出た 『地図』 を入れて18冊出ているらしい。 さっき我が家の本棚を数えたら11冊並んでいた。18冊なんてすぐに読み終わりそうなものだが、なかなか進まないのである。なぜなら、読み終わった本を読み返すからだ。特に、…

聞き上手

……やがて幸山船長はむかしの恋物語をはじめ、私はできるだけ無関心をよそおって聞いた。――そういう話をうまく聞くには、相手によって二種類の聞きかたがあるようだ。或る者はこっちが乗り気になって、強い関心を示さなければならないし、他の者は反対に、聞…

長と猛獣映画

ある日、《私》 は 《船宿「千本」の長》 という少年を伴れて、浅草へ映画を見に行く。「アメリカだかイギリスだかの夫婦の探検家が、アフリカの奥地で猛獣狩りをする」 という映画である。 この小学三年生の、こまっちゃくれの長は、映画が始まると同時に12…

フィッシャー=ディースカウのシューベルト

ザ・ベスト・オブ・シューベルトアーティスト: フィッシャー=ディースカウ(ディートリッヒ)出版社/メーカー: TOSHIBA-EMI LIMITED(TO)(M)発売日: 2007/07/25メディア: CD購入: 3人 クリック: 78回この商品を含むブログ (5件) を見る 「野ばら」、「魔王」、…

アンデルセン 『絵のない絵本』

絵のない絵本 (若い人の絵本)作者: アンデルセン,岩崎ちひろ,山室静出版社/メーカー: 童心社発売日: 1966/11/25メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 2回この商品を含むブログ (3件) を見る 『絵のない絵本』 に絵がついているのは素敵なことである。 以前、…

地図のついている小説

『エルマーのぼうけん』 から 『夜明け前』、『津軽』 まで、巻頭に地図がついている小説は、どれも面白い。しかし、『ゲド戦記』 は地図がよくない。あの地図は挿絵画家が描いたのだろうか。全く地理的センスが感じられないのである。 あと、『世界の終りと…

田山花袋 『蒲団』

猫猫先生は 『蒲団』 が好きすぎて、来週はおそらく大絶賛になるだろうと思うので、先に感想を書いておくことにする。 ……暫(しばら)くして立上って襖を明けてみた。大きな柳行李が三箇細引で送るばかりに絡(から)げてあって、その向うに、芳子が常に用い…

第7講 夏目漱石『三四郎』(3)

http://homepage2.nifty.com/akoyano/juku/top.html - 文学コース 遅刻してしまいました 今回は電車遅延のため遅刻してしまったため(といっても5分くらいですけど)、講義ノートは途中から。最初の部分は以下のエントリに記されています。 代理レポート途中…

青べか馴らし

《私》 は近所の人たちから、《蒸気河岸の先生》 と呼ばれている。蒸気河岸というのは船着場のことで、そのあたりに住んでいるからだ。 おんぼろ小舟をまんまと売りつけられた先生は、高い代金を払って、青べかを修理する。しかし、青べかは 「まぬけなぶっ…

続・鬼

鬼 - 蟹亭奇譚の続き。 持病の関節炎が疼きはじめた。仕事を早退し、帰りの電車では優先席に座り、ほうほうの体でかかりつけの医者の元へたどり着く。医師は患部の足首へ注射する。待合室まで響く僕の叫び声が聞こえる。 雨の中、痛む足をひきずりながら帰宅…

「青べか」を買った話

『青べか物語』 は昭和35〜36年に発表された長編小説。 昭和の初め頃、東京湾に面した小さな漁師町、浦粕(うらかす)に住んだ若手作家の 《私》 は、奇妙な老人に声をかけられ、おんぼろな小舟をまんまと売りつけられてしまう。浦粕というのは、もちろん浦…

山本周五郎 『青べか物語』

山本周五郎の文章、たまらない。特に会話。

鏡に鬼が映っていた。

猫と寝る夜

夜、寝室へ上がろうとすると、猫のケイがついて来て、さっさと布団にもぐり込む。最近は掛け布団の下だと暑苦しいらしく、上から乗る格好である。僕の脇腹のあたりに体を寄せ、頭は脇の下に埋めるように寝ている。 だが、ケイは寝たふりをしているだけなので…

潤一郎ラビリンス(6)

久しぶりに谷崎。わくわくしながら読んでいる。

谷崎潤一郎 『独探』

大正4年に発表された短編小説。独探とはドイツのスパイという意味だが、スパイ小説ではない。 《私》 ことミスター・タニザキは西洋に憧れ、外国語を学びたいと思っている。初めて紹介された墺太利(オースタリー)人 G 氏からドイツ語を教わるのだが、G 氏…

第6講 夏目漱石『三四郎』(2)

http://homepage2.nifty.com/akoyano/juku/top.html - 文学コース 講義ノート 講義の最中にとったノートをほぼそのまま写したものなので、文責はすべて kanimaster にあります。 漱石について書いた人 夏目鏡子述・松岡譲筆録 『漱石の思い出』 夏目伸六 『…

森鷗外 『阿部一族・舞姫』

短編集(新潮文庫)の感想まとめ。 『舞姫』 最初から最後まで、極端な《上から目線》というところがすごい。 彼女の家に行ったらオムツの山。エリスが「何とか見玉ふ、この心がまへを。」と語る、主人公ドン引き場面の演出効果は素晴らしいと思う。 此恩人…

ヘッセ 『デミアン』

主人公シンクレールが年上の友人デミアンに出会い、次第に惹かれていく前半は、非常に面白い。ぞくぞくくるような面白さがある。 しかし、オルガン奏者ピストーリウスが登場する中盤あたりから、だんだん怪しげな雰囲気になっていく。秘密結社(らしきもの)…

第5講 夏目漱石『三四郎』(1)

http://homepage2.nifty.com/akoyano/juku/top.html - 文学コース 講義ノート 講義の最中にとったノートをほぼそのまま写したものなので、文責はすべて kanimaster にあります。 漱石はなぜそんなに有名なのか 明治40年頃、自然主義文学の隆盛。 大正5年(19…

『デミアン』 を買いなおす

岩波文庫版があまりにもひらがなが多すぎて、頭が痛くなってきたので、読書中止。 たまたま新潮文庫版(高橋健二訳)を古本屋で見つけて購入。50円なり。10歳の少年、シンクレールの一人称が 「私」 というのは変な感じがしていたのだが、セリフの中はちゃん…

ヘッセ 『デミアン』

岩波文庫(実吉捷郎訳)を選んだのは、語り手の一人称が「ぼく」だからだ。 しかし、この訳はひらがなが多すぎる。「ほうたい」、「ざんこく」、「むじゃき」という表記はいかがなものか。「崇敬」、「醜聞」、「萌芽」のような熟語もたくさん使われているの…

『夜明け前』 の顛末

ようやく読み終わったので、本の感想以外のことをいくつか。 正味1ヶ月かかった。1日平均40ページくらい。じっくり味わうように、酔ったように読んだ。 読むのが早い人だったら、1週間くらいで読めるかもしれない。「3日で読んだ」 という人もいるかもしれな…

夏目漱石 『三四郎』

猫猫塾の予習を兼ねて。 この本を読むのは4回目くらい。何度読んでも面白い。 『三四郎』 の文章ってこんなに軽かったっけ?と感じるのは、重厚な 『夜明け前』 を読み終わった直後だからにちがいない。

終の章

万福寺放火事件を起こした半蔵は、とうとう座敷牢へ入れられる。 かつての彼の弟子、勝重はそんな半蔵を見舞いに落合の村から出かけていく。半蔵の好きな、しかし禁じられている酒を携えて。明治十九年十一月のことである。 ……勝重は、さもあろうというふう…

家族の写真

明治十七年、五十四歳の半蔵は隠居の身となってから、すでに十年が過ぎている。 『夜明け前 第二部』 第十四章は、彼の子供たちの消息を中心に語られる。 三男の森夫と四男の和助が東京で撮った写真は、時をおいて、二枚ばかり半蔵の手にはいったこともある…

日本語が亡びるとき

前回引用した 「キャット撫で声」 の直後の段落から。 半蔵は腕を組んでしまって、渦巻く世相を夢のようにながめながら、照りのつよい日のあたった南向きの障子のわきにすわりつづけた。まだ春も浅く心も柔らかな少女たちが、今にこの日本の国も英語でなけれ…

なぜ人は病気になりたがるのか

しかしやっぱり興味深いのは、別に医者の様な知識を持っているわけでも、医者の診断を受けているわけでもないのに、何でそういう風に人や自分に「病気」や「障害」のレッテルを貼り付けたがるかなぁということです。みんな「病気」になりたい時代 - あままこ…

トゥギャザーしようぜ

明治七年、半蔵三度目の上京。今回は江戸ではなく東京である。文明開化の東京は、いろいろ大変なことになっているようだ。 ……寄席の高座で、芸人の口をついて出る流行唄(はやりうた)までが変わって、それがまた英語まじりでなければ納まらない世の中になっ…