田山花袋 『蒲団』

 猫猫先生は 『蒲団』 が好きすぎて、来週はおそらく大絶賛になるだろうと思うので、先に感想を書いておくことにする。

……暫(しばら)くして立上って襖を明けてみた。大きな柳行李が三箇細引で送るばかりに絡(から)げてあって、その向うに、芳子が常に用いていた蒲団(ふとん)――萌黄唐草(もえぎからくさ)の敷蒲団と、線の厚く入った同じ模様の夜着とが重ねられてあった。時雄はそれを引出した。女のなつかしい油の匂いと汗のにおいとが言いも知らず時雄の胸をときめかした。夜着の襟(えり)の天鵞絨(びろうど)の際立(きわだ)って汚れているのに顔を押附けて、心のゆくばかりなつかしい女の匂いを嗅(か)いだ。
 性慾と悲哀と絶望とが忽(たちま)ち時雄の胸を襲った。時雄はその蒲団を敷き、夜着をかけ、冷めたい汚れた天鵞絨の襟に顔を埋めて泣いた。
 薄暗い一室、戸外には風が吹暴(ふきあ)れていた。


 田山花袋 『蒲団』

 『蒲団』 の結末は上のとおり、若い女に振られた主人公・竹中時雄が女の残り香の漂う夜着に顔を埋めて泣いて終わる。
 僕は初めてこれを読んだとき、怒って本を壁に投げつけた。フェチ的にいうと、女の夜着をゲットするというのはラッキーとしかいいようがないわけで、これは顔を埋めてオナニーしなければ嘘である。というより、この状況だったら女など不要であろう。恋愛など所詮不毛なのである。
 最後に主人公が死んで終わる 『少女病』 のほうが、ずっと素晴らしいと思う。

 ところで、電子書籍とか青空文庫というのは、壁に投げつけることが出来ないのが難点ですね。