森鷗外 『阿部一族・舞姫』
短編集(新潮文庫)の感想まとめ。
『舞姫』
- 最初から最後まで、極端な《上から目線》というところがすごい。
- 彼女の家に行ったらオムツの山。エリスが「何とか見玉ふ、この心がまへを。」と語る、主人公ドン引き場面の演出効果は素晴らしいと思う。
此恩人は彼を精神的に殺ししなり。
- 「恩人」とは主人公の友人・相沢。「彼」とはエリスのことである。(彼女(かのじょ)という言葉は存在しなかったのだろう。)主人公はすべてを相沢のせいにしている。ひどい話である。
『うたかたの記』
- 主人公・巨勢(こせ)と少女マリイの物語だが、主人公が日本人である意味がわからない。
『鶏』
- 主人公の軍人は名刺を配って歩いているだけである。
- 飼っている鶏がどんどん増えていくところ、くすりと笑った。
『かのように』
- 史観、思想の対立を描いた小説。面白くはない。
『阿部一族』
- 《殉死》 をテーマにした傑作。本書の中では一番面白かった。
- とにかくやたらと人が死ぬ。
- 阿部家の隣りに住んでいる柄本又七郎という男、どさくさにまぎれて、手柄を立てる。ひどい話である。
『堺事件』
- 明治元年、フランス兵と土佐藩の戦い、および処刑(切腹)を扱った作品。同じ事件について、島崎藤村が 『夜明け前』 に書いているが、全く解釈が異なる。
- 切腹する者20名は籤引きで決められる。
- 切腹の直前というのは意外にヒマなのかもしれない。辞世の漢詩を書いて互いに褒めあったり、寺の鐘を撞かせろと言って僧侶ともみ合ったり、切腹の場所をみんなでぞろぞろ見に行ったり、戯れに(死者を入れる)大甕に入ったら滑って出られなくなったりしている。お前らは修学旅行の中学生か。
- 実際に切腹したのは11人。切腹の場面はスプラッターである。真面目に書かれているのだが、真面目であればあるほど、悲劇的な感情からかけ離れて行くところが怖い。
『余興』
- 宴会のお座敷で、浪花節の余興を見せられるが、主人公はそれが嫌で嫌でたまらない。
義士等が吉良(きら)の首を取るまでには、長い長い時間が掛かった。この時間は私がまだ大学にいた時最も恐怖すべき高等数学の講義を聴いた時間よりも長かった。それを耐忍したのだから、私は自ら満足しても好いかと思う。
- その退屈な気分を、年増の芸者に見破られている。
- それに対する主人公の言い訳の独白が長すぎる。
『じいさんばあさん』
- 大名屋敷の中に建てられた明家(あきや)に、老夫婦が越してくる。彼等は一体何者なのか?という話。
- 後半、時代を遡って夫婦の来歴が語られるのだが、その前に結末が書かれているため、ストーリー展開としてはおかしなことになっている。