読書中

川端康成 『古都』

千重子は、人ぎらいの養父がこもっている尼寺へ様子を見に行く。父は習字をやっているらしく、机の片隅に硯箱とお手本がおいてある。 「硯箱の上の、古いお数珠は?」 「ああ、あれか。庵主さんに無心言うて、いただいたんや。」 「あれをかけて、お父さんお…

お雪

「お雪、俺とお前と何方(どっち)が先に死ぬと思う」 「どうせ私の方が後へ残るでしょうから、そうしたら私はどうしよう――何にも未だ子供のことは為(し)て無いし――父さんの書いた物が遺(のこ)ったって、それで子供の教育が出来るか、どうか、解らないし…

夫婦の時間

三吉夫婦は三人の娘をうしなった後、男の子を三人授かっている。親戚中は相変わらずごたごたしているが、家の中は静かである。 「どうだ――」と三吉はお雪に、「この酒は、欧羅巴(ヨーロッパ)の南で産(でき)る葡萄酒だというが――非常に口あたりが好いぜ。…

お俊の縁談

小泉家の長兄実は次々と事業を起こそうとするが、どれも失敗し、借財がかさむばかりである。そのくせ長男=家長としてのプライドが強く、妻子や弟たちの前では威張っている。しかし、彼らの生活を支えているのは、今や次兄森彦と三吉の二人なのだ。 満州へ行…

お俊登場

三吉夫婦の三人の娘たちが相次いで病没する。その悲しみもさめやらぬ頃、三吉の妻お雪の祖母逝去の報が届く。お雪は四番目の男の子を連れ、生家の函館へ旅立ち、ひと夏をそこで過ごす。 お雪は二人の話を聞きながら、白足袋を穿いた。「私が留守に成ったら、…

島崎藤村 『家 (下巻)』

家 (下巻) (新潮文庫)作者: 島崎藤村出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1968/04メディア: 文庫この商品を含むブログ (1件) を見る 小説 『家』 に描かれている年代の前後、作者・島崎藤村自身に起こった出来事を要約すると以下のとおりである。*1 明治32年 4月…

お種

夫に女がいる――。女の勘というばかりではなく、以前にもそういうことがあったのだ。三吉の姉お種はこれを「橋本の家に伝わる病気」と呼んでいる。 『家 (上巻)』 八は場面が変わって、お種が主人公となる。 お種は早くから精神を病んでいる。娘時代には自…

三吉夫婦の子育て

三吉夫婦に長女お房が生まれた。その翌年のことである。 ……次第に発育して行くお房は、離れがたいほどの愛らしい者と成ると同時に、すこしも母親を休息させなかった。子供を育てるということは、お雪に取って、めずらしい最初の経験である。しかし、泣きたい…

三吉の結婚

東京に戻った三吉は家族の言いなりに結婚する。相手は金持ちの商家の娘お雪である。田舎で教師をしている三吉はお雪とともに、そこで新しい家庭を築こうとしている。 ところがある日、彼は新妻の書きかけの恋文を見つけてしまう。もう別れたほうが良いのか――…

島崎藤村 『家 (上巻)』

家 上巻 (新潮文庫 し 2-4)作者: 島崎藤村出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1968/06メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 2回この商品を含むブログ (1件) を見る 上巻は明治43年、下巻はその翌年に発表された作品だが、元々別個の小説だったものをあとから改稿…

家族の写真

木曾福島の老舗薬種問屋。この地方の旧家に嫁いだ姉お種のもとで、主人公小泉三吉はひと夏を過ごす。お種は三吉と年が十六も離れていて、彼女のひとり息子正太と三吉は三つ違いである。 「母親(おっか)さん、写真屋が来ましたから、着物を着更えて下さい」…

さらば署長

5年間在任した署長の転任が決まった。市民は転任反対、留任嘆願の示威運動を起こす。新聞はそれを派手に書き立てる。しかし、署長は彼らに背を向けるかのように、私の出世を邪魔するな、と発言し、市民は失望する。 ……そこには町の者たちが遠巻きに見ている…

蟹と署長

署長は庶民の味方である。特に貧しい人々から慕われていて、毎日のように多くのひとたちが本署や官舎を訪ねて来る。 ……いつかなんぞ七つばかりの男の子が三人で、川蟹をバケツに一杯持って来ましたっけ。 「こいつはもくぞう蟹、これは清水蟹」と彼等は署長…

本読み署長

署長室の机の上にはいつもたくさんの本が積んである。積んであるだけでなく、ちゃんと読んでいる。読んでいる本は文学関係のものばかりで、しかも洋書が多い。 「私は多くの人間を不幸にし、また多くの人間から不幸にされた。いつかは、片方が片方を帳消しに…

山本周五郎 『寝ぼけ署長』

寝ぼけ署長 (新潮文庫)作者: 山本周五郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1981/08/27メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログ (20件) を見る やたらとユルい始まり方である。このまま、ゆるゆると行くんだろうか?

潤一郎ラビリンス(7)

潤一郎ラビリンス〈7〉怪奇幻想倶楽部 (中公文庫)作者: 谷崎潤一郎出版社/メーカー: 中央公論社発売日: 1998/11/18メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログ (10件) を見る 「怪奇幻想倶楽部」 というサブタイトルがついている短編集。わくわく。

三島由紀夫 『天人五衰』

《豊穣の海》四部作の、いよいよ完結編。 『暁の寺』 はいま一つだったのだけど、いかがなものか。自意識過剰な少年が登場する冒頭は、結構面白いと思うのだが。

捨吉の恋

捨吉は女学校の英語教師になる。そこで、彼と同い年の勝子という教え子に惚れてしまう。勝子はそんなに成績が良いほうではなく、どちらかといえば目立たない少女だった。捨吉は彼女に対して思いを告げることもないのだが、その目つきや態度から、同級の他の…

五勺にしとこう

学校を卒業した捨吉は、教会関係の伝手で翻訳の仕事につく。友人や良き先輩との交流も増えてきたところだ。しかし、彼の懊悩は止まらず、日々悶々としている。捨吉、二十歳のときである。 ……自分の内部(なか)に萌(きざ)して来る狂(きちがい)じみたもの…

苦手な算盤

東京で書生生活を送る主人公・岸本捨吉は無事学校を卒業。主人が経営する横浜の商店の手伝いをしている。 一日の売場の勘定が始まる頃には、真勢さんをはじめ、新どん、吉どんなどの主な若手が、各自(めいめい)算盤(そろばん)を手にして帳場の左右に集っ…

島崎藤村 『桜の実の熟する時』

活字が小さくて読むのが大変。

『重力ピエロ』 200ページくらいまで

なんとも微妙な展開。200ページを過ぎたあたりで、ようやく事件らしい事件が起きる。100ページ読んでつまらなかったら止める、というのを読書方針にしているのだけど、これはいかがなものか。借り物の本じゃなかったら、とっくに止めてたはずだ。 このあと面…

ローランド・カーク

『重力ピエロ』 の中に、主人公の兄弟と入院中の父親がローランド・カークの CD を聴いて感動する場面が出てくる。 ローランド・カーク(1936〜1977)というサックス奏者は、首から何本もの楽器をぶら下げ、同時に2〜3本のサックスを吹くという奇抜なミュー…

「やっとるか。」

「ひばり。」と今も窓の外から、ここの助手さんのひとりが僕を鋭く呼ぶ。 「なんだい。」と僕は平然と答える。 「やっとるか。」 「やっとるぞ。」 「がんばれよ。」 「よし来た。」 この問答は何だかわかるか。これはこの道場の、挨拶である。助手さんと塾…

竹さん

明け方のまだ薄暗い時間、洗面所で助手(看護婦)の組長の 《竹》 がしゃがみこんで、床を拭いている。(はっきり書かれていないが、喀血した患者の血液を拭いているのだと思う。) 「竹さん、さっき、」声が咽喉(のど)にひっからまる。喘(あえ)ぎ喘ぎ言…

「いったいこの自由思想というのは、」と固パンはいよいよまじめに、「その本来の姿は、反抗精神です。破壊思想といっていいかも知れない。圧制や束縛が取りのぞかれたところにはじめて芽生える思想ではなくて、圧制や束縛のリアクションとしてそれらと同時…

太宰治 『パンドラの匣』

主人公の少年 《ひばり》 は結構金持ちである。父親は数学者で、「いつも貧乏」 と書かれているが、そんなことはない。畑を持っていて、終戦前後でも食べ物に困らないし、着物も羽織など良いものを着ている。 「……ひばりのお父さんて、偉いお方ですってね。…

伊坂幸太郎 『重力ピエロ』

息子が本棚から 『海辺のカフカ』 を持っていったので、かわりに借りる。

太宰治 『正義と微笑』

『正義と微笑』 は昭和17年に発表された中編小説。主人公の16〜17歳(数え年)のときの日記という形式で書かれているが、一体いつの時代の話なんだろう? と思って、昔のカレンダーをたよりに調べてみた。 誕生日は何曜日? 冒頭、「四月十六日。金曜日。」…

人はなんによって生くるか

《私》 が土堤で釣りをしていると、隣に男がやってきて釣り始める。 ……私が竿をあげようとするまえに、脇で釣りだした人が私に呼びかけた。 「人はなんによって生くるか」 私はそちらへ振り向いた。 「人はなんによって生くるか」 (中略) その男は現場監督…