「いったいこの自由思想というのは、」と固パンはいよいよまじめに、「その本来の姿は、反抗精神です。破壊思想といっていいかも知れない。圧制や束縛が取りのぞかれたところにはじめて芽生える思想ではなくて、圧制や束縛のリアクションとしてそれらと同時に発生し闘争すべき性質の思想です。よく挙げられる例ですけれども、鳩(はと)が或る日、神様にお願いした、『私が飛ぶ時、どうも空気というものが邪魔になって早く前方に進行できない、どうか空気というものを無くして欲しい』神様はその願いを聞き容(い)れてやった。然(しか)るに鳩は、いくらはばたいても飛び上る事が出来なかった。つまりこの鳩が自由思想です。空気の抵抗があってはじめて鳩が飛び上る事が出来るのです。闘争の対象の無い自由思想は、まるでそれこそ真空管の中ではばたいている鳩のようなもので、全く飛翔(ひしょう)が出来ません。」
「似たような名前の男がいるじゃないか。」と越後獅子はスリッパを縫う手を休めて言った。


 太宰治パンドラの匣

 《固パン》 が語る 「鳩」 の話は、カント 『純粋理性批判』 の引用。
 「似たような名前の男」 とは、鳩山一郎のこと。鳩山由紀夫鳩山邦夫の祖父である。
鳩山一郎 - Wikipedia
 鳩山一郎は、昭和20年に日本自由党(のちの自民党)を結成、初代総裁となった。彼が内閣総理大臣になったのは昭和29年である。