太宰治 『正義と微笑』

 『正義と微笑』 は昭和17年に発表された中編小説。主人公の16〜17歳(数え年)のときの日記という形式で書かれているが、一体いつの時代の話なんだろう? と思って、昔のカレンダーをたよりに調べてみた。
誕生日は何曜日?
 冒頭、「四月十六日。金曜日。」と書かれているので、日付と曜日から、これは1937(昭和12)年のことだとわかる。この小説の題材となった日記の著者、堤康久(Wikipedia)と、作中で言及されている 「綴方教室」(小学生の作文を収録した本)の作者、豊田正子Wikipedia)は、二人とも1922年生まれなので、冒頭の日記が1937年という設定であることは確実だ。
 しかし、途中で半年ほど日記が中断し、翌年の1月に再開する箇所では、「一月四日。水曜日。」と記されている。上の万年カレンダーを見ると、1939(昭和14)年になっているではないか。日記は最後まで曜日がずれたままである。これは作者の勘違いだろうか。

http://www14.big.or.jp/~hosoya/who/tsu/tsutsumi-yasuhisa.htm
 ところで、本作のモデル、堤康久は小説発表当時二十歳前後。本当に俳優になり、戦後は東宝映画などの脇役俳優として活躍した。『ウルトラQ』などの特撮ドラマにも出演していたので、僕も顔を覚えている。へえ、この人の少年時代の日記が、小説になってたのか! と驚く。


正義と微笑 (SDP Bunko)

正義と微笑 (SDP Bunko)

パンドラの匣 (新潮文庫)

パンドラの匣 (新潮文庫)