2009-01-01から1年間の記事一覧

ヒーロー

1917年夏、ヘンリーは松葉杖を使わずに歩けるまで回復した。単独で外出できるようになった代りに、付き添いと称してキャサリンとデートすることは許されなくなったというシチュエーションである。彼はミラノのバーで数人の知人と会う。その中に、エットーレ…

セカンド・オピニオン

前線で負傷したヘンリーは、ミラノのアメリカ兵専用病院へ転院する。そこへなぜか、以前の任地で知り合った恋人の 《看護師*1》 キャサリン・バークリーが転任してくる。ヘンリー君、もうやりたい放題である。 ヘンリーの膝には被弾した際の破片が残っている…

迫撃砲

1917年、アメリカ人の主人公 《ぼく》 ことフレドリック・ヘンリー中尉は、赤十字義勇兵としてイタリア軍に加わっていた*1。彼の任務は前線で負傷した兵士を搬送車両に乗せ、後方まで送り届けることである。作戦の場所はオーストリア国境付近の山岳地帯。夜…

ヘミングウェイ 『武器よさらば』

『武器よさらば』 は1929年に発表された長編小説。 ヘミングウェイの長編は初挑戦。短編はいくつか読んだことがあるのだが、かなり技巧的な小説を書くひとだと思った。長編はいかがなものか。 50ページくらい読んだのだけど、事件らしい事件が起こらない。文…

ル=グウィン 『ゲド戦記1 影との戦い』

1を読むのは3回目。まとまらないので箇条書き。 4までしか読んだことがなかった。今回は岩波少年文庫で6まで読むつもり。 以前読んだときは、1と3が面白いと思った。主人公の冒険が多いからだろう。でも、2が一番好きという人もいる。 1は過去2回読ん…

立冬を過ぎた頃

飼い猫に蒲団取られし冬の朝 北風の突き刺さること針のごと 木枯しや人影もなき不動尊 木枯しの音のみ響くヘッドホン 立冬や先生の馬鹿とつぶやく

谷崎潤一郎 『過酸化マンガン水の夢』

『過酸化マンガン水の夢』 は昭和30年に発表された日記形式の短編小説。フィクションなのだろうけど、自著に言及している箇所があるので、主人公は谷崎自身といってよいだろう。 ……田村町の某と云う中華料理店に夕食をたべに行く。高血壓以来中華料理は兎角…

谷崎潤一郎 『青塚氏の話』

映画監督中田は一人の中年男に出会う。男は、中田の妻であり女優の由良子が主演する映画は全て、何度も見ており、彼女の身体の隅々まで覚えているのだと云う。 「君は由良子嬢の体に就いては、此の世の中の誰よりも自分が一番よく知っている積りなのかい?」…

小春日和

小春日やリハビリ通う三十分

谷崎潤一郎 『人面疽』

アメリカで成功し帰国した女優歌川百合枝は、自分が主演する怪奇映画が東京の場末の映画館で上映されている噂を耳にする。 ……けれどもどうしても、彼女にはそう云う劇を演じた記憶が残って居なかった。尤も、フィルムへ写し取る為めに劇を演ずる場合には、普…

潤一郎ラビリンス (11)

潤一郎ラビリンス〈11〉銀幕の彼方 (中公文庫)作者: 谷崎潤一郎,千葉俊二出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 1999/03/18メディア: 文庫 クリック: 1回この商品を含むブログ (7件) を見る 短編小説 『人面疽』、『アヹ・マリア』、『青塚氏の話』、『過酸…

村上春樹 『神の子どもたちはみな踊る』

「三宅さんってさ、ひょっとしてどこかに奥さんがいるんじゃないの?」 (中略) 「子どももいるの?」 「ああ。いる。二人もいる」 「神戸にいるんだね」 「あそこに家があるからな。たぶんまだそこに住んどるやろな」 「神戸のなんていうところ?」 「東灘…

横光利一 『微笑』

太平洋戦争末期、主人公梶の元に青年天才科学者が現れる。青年は 「凄い光線」 で敵艦や飛行機を一撃で倒す秘密兵器を発明、開発しているのだという。 「じゃ、二十一歳の博士か。そんな若い博士は初めてでしょう」 「そんなことも云ってました。通った論文…

アメリカ TV ドラマのアバンタイトル

アバンタイトルの謎 - 猫を償うに猫をもってせよ 「アバンタイトル」 という呼称は、僕も初めて知ったのですが、TV ドラマや映画のオープニング・テーマの前に挿入されるプロローグ・シーン(英語では prologue scene でいいのかな?)のことをアバンタイト…

横光利一 『機械』

初めの間は私は私の家の主人が狂人ではないのかとときどき思った。 横光利一 『機械』 冒頭にこんなことが書かれているが、どう考えても狂っているのは語り手の 《私》 のほうである。そう解釈するほうが辻褄があう。《私》 が住み込みで働くネームプレート…

横光利一 『時間』

私達を養っていてくれた座長が外出したまま一週間しても一向に帰って来ないので、或る日高木が座長の残していった行李を開けてみると中には何も這入(はい)っていない。さアそれからがたいへんになった。座長は私達を残して逃げていったということが皆の頭…

横光利一 『蠅』

真夏の宿場は空虚であった。ただ眼の大きな一疋の蠅だけは、薄暗い厩(うまや)の隅の蜘蛛の巣にひっかかると、後肢で網を跳ねつつ暫(しばら)くぶらぶらと揺れていた。と、豆のようにぼたりと落ちた。そうして、馬糞の重みに斜めに突き立っている藁の端か…

志賀直哉 『十一月三日午後の事』

晩秋には珍しく南風が吹いて、妙に頭は重く、肌はじめじめと気持の悪い日だった。 志賀直哉 『十一月三日午後の事』 大正7(1918)年11月3日は蒸し暑い日だったらしい。「七十三度」(華氏) と書かれているから、摂氏に換算すると 22.7度である。 この日、…

晩秋

新旧とりまぜて。 焼芋の煙たなびく並木道 秋の星満天に見ゆ成層圏 レコードのノイズも楽し秋の夜 ひよどりも耳を澄ませるショパンかな 萩咲く日巡り来たれりこの年も 赤白の玉を投げ上ぐ秋の空 道端に何時しか咲きし野紺菊 誰も皆齢を重ねし里の秋 下駄箱の…

横光利一 『御身』

大学生の主人公末雄の姉に、幸子(ゆきこ)という女の子が生まれる。彼は姪のことが可愛くてたまらず、彼女にまつわる全てのことに一喜一憂し、一人で大騒ぎする。 彼は自分の幸子に対する愛情の種類を時々考えて、 「俺は恋をしてるんだ」とまじめに思うこ…

泉鏡花 『海城発電』

『海城発電』は明治29年に発表された短編小説。海城とは日清戦争(明治27〜28年)当時、日本軍が占領した中国遼寧省の地名であり、戦場を舞台にした戦争小説である。 日本人の赤十字看護員が、友軍の軍夫(軍人)に囲まれ、リンチ同様の仕方で尋問されている…

泉鏡花 『売色鴨南蛮』

『売色鴨南蛮』 は大正9年に発表された短編小説。 冒頭の場面は、雨の万世橋駅。「例の銅像」 のこともちゃんと書かれている。 威(おどか)しては不可(いけな)い。何、黒山の中の赤帽で、其処に腕組をしつつ、うしろ向きに凭掛(もたれかか)っていたが、…

泉鏡花 『女客』

『女客』 は明治38年に発表された短編小説。 当家の主人 謹さんは母親と二人暮らしの独身者。そこへ上京した親戚の女 お民が幼子を連れて逗留している。謹さんとお民は同い年。最初は何気ない世間話をしているが、次第に謹さんの愚痴話になる。暮らしが貧し…

はてブの「おすすめタグ」が変です

上の画像のとおりなんですけど、記事とは無関係な 「おすすめタグ」 が並んでいます。[勝間和代] とか [ブログレンジャー] といったタグは、以前僕が他の記事に対して使ったことのあるものばかりですが、今までこんなことはありませんでした。もちろんこの記…

馬場孤蝶と樋口一葉

島崎藤村と樋口一葉 - 蟹亭奇譚 平田禿木、酔っ払って樋口一葉を訪ねる - 蟹亭奇譚 樋口一葉と『文學界』の男たち - 蟹亭奇譚 馬場孤蝶、戸川秋骨、平田禿木等、同人雑誌 『文學界』 の面々がしばしば樋口一葉の住居を訪ねたことは、再三述べたとおりである…

泉鏡花 『高野聖』

泉鏡花の怪奇小説の最高峰とされる 『高野聖』(明治33年)を再読。 語り手の 《私》 が旅先で出会った僧侶が語る昔話という体裁の短編小説である。鏡花の小説はとかく観念的とされ、抽象的で曖昧な描写が特徴的なのだけれども、本作の特に前半は、描写が気…

訃報

ブログ関係で交流のあったギビさんがお亡くなりになりました。 ギビさんとは、彼女が中学の頃からウェブで知り合い、さまざまなやりとりをしてきました。何度かお会いしたこともあるのですが、明るい笑顔が忘れられません。 ギビさんは多くの詩や小説を書い…

明治期のメソジスト教会と永坂孤女院

童謡 「赤い靴」 に関する事柄を調べていたら、興味深い記事を発見した。 麻布学(4)鳥居坂教会のルーツ - おおた 葉一郎のしょーと・しょーと・えっせい 僕の手元に大濱徹也著 『鳥居坂教会百年史』(1987年刊) があるので、参考にしながらいくつかの事…

馬場孤蝶、島崎藤村と喧嘩する

明治22年、馬場孤蝶は明治学院の二年級に編入し、島崎藤村と同級となる。少年時代の藤村は才気煥発、天秤棒(出っ張っているという意味)と綽名のつくくらい積極的な性格だったらしいのだが、この頃になると意気消沈し、学校も休みがちであったという。 ……と…

秋雨その2

ロキソニン60ミリの夜長かな 秋雨や暗き小部屋でモンク聴くソロ・モンク+9アーティスト: セロニアス・モンク出版社/メーカー: ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル発売日: 2003/12/17メディア: CD購入: 3人 クリック: 16回この商品を含むブログ …