村上春樹 『神の子どもたちはみな踊る』

「三宅さんってさ、ひょっとしてどこかに奥さんがいるんじゃないの?」
 (中略)
「子どももいるの?」
「ああ。いる。二人もいる」
「神戸にいるんだね」
「あそこに家があるからな。たぶんまだそこに住んどるやろな」
「神戸のなんていうところ?」
「東灘区」
 三宅さんは目を細め、顔をあげて暗い海の方を見て、それからまた火に視線を戻した。


 村上春樹 『アイロンのある風景』

 1999年、雑誌 『新潮』 に 『地震のあとで』 という題名で連載された連作短編集。各作品はいずれも 1995年1月に起きた阪神大震災の後の出来事という共通点を持っている。
 今までに読んだ村上春樹の小説は、どこか知らない場所で起こるよくわからないような話(でも、なんとなく読んでしまう)が多かった気がするのだが、特定の時代と場所(神戸とは無関係な地名であっても)が書かれるだけで、現実味を帯びてくる。
 あの時、あなたはどこで何をし、何を考えていたのですか?――そんな風に問いかけられているような気がする。


神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)