ジェリー・マリガン・カルテット・アット・ストーリーヴィル

 "Gerry Mulligan Quartet At Storyville" は、1956年にボストンのジャズ・クラブ The Storyville Club で録音されたライヴ盤。メンバーは、ジェリー・マリガン(bs)、ボブ・ブルックマイヤー(v-tb)、ビル・クロウ(b)、デイヴ・ベイリー(ds) の4人である。
 ジェリー・マリガン(1927-1996) は1940年代以降、半世紀近くにわたって活躍したバリトン・サックス奏者であり、作・編曲者としても超一流の実力を持つジャズ・ミュージシャンであった。彼の最盛期である50年代のバンドは、ピアノレス・カルテット編成が多く、本作もピアノ、ギターなどのコード楽器が加わっていないのが特徴である。
 サックス、トロンボーン、ベースと単音楽器が3人しかいないのに、美しいハーモニーと厚みのあるサウンドを奏でるのだから、それだけでもすごいことなのだが、とにかく全員が忙しいのである。スタン・ゲッツなどは自分のソロが終わると、ステージの袖に引っ込んでしまったらしいが、彼らは違う。最初から最後まできちっと仕事をこなしている。しかも、ノリまくりスイングしまくりで、聴衆を楽しませ、飽きさせない。もちろん彼ら自身も楽しんで演奏している。低音楽器ばかりなので、象がダンスしているような感じの音楽ではあるが、決して重たいものではなく、アップ・テンポの曲が多いこともあって、軽快なモダン・ジャズになっているのがた・た・楽しい。


さよならバードランド―あるジャズ・ミュージシャンの回想 (新潮文庫)

さよならバードランド―あるジャズ・ミュージシャンの回想 (新潮文庫)

 「アット・ストーリーヴィル」 に参加しているベーシスト、ビル・クロウは、後に評論家、エッセイストとして有名になった人物でもある。村上春樹が翻訳した 『さよならバードランド―あるジャズ・ミュージシャンの回想』 には、ジェリー・マリガンと共演した頃のエピソードも書かれている。
 ビル・クロウはミュージシャンとしては地味な存在だが、「アット・ストーリーヴィル」 における堅実なベース演奏はこのバンドにおいて重要な位置を占めているといえよう。村上春樹がきっかけでジャズを聴き始めたというような方には、ぜひ聴いていただきたいアルバムだと思う。