2009-11-03から1日間の記事一覧

横光利一 『蠅』

真夏の宿場は空虚であった。ただ眼の大きな一疋の蠅だけは、薄暗い厩(うまや)の隅の蜘蛛の巣にひっかかると、後肢で網を跳ねつつ暫(しばら)くぶらぶらと揺れていた。と、豆のようにぼたりと落ちた。そうして、馬糞の重みに斜めに突き立っている藁の端か…

志賀直哉 『十一月三日午後の事』

晩秋には珍しく南風が吹いて、妙に頭は重く、肌はじめじめと気持の悪い日だった。 志賀直哉 『十一月三日午後の事』 大正7(1918)年11月3日は蒸し暑い日だったらしい。「七十三度」(華氏) と書かれているから、摂氏に換算すると 22.7度である。 この日、…