2008-01-01から1年間の記事一覧

夏目漱石 『野分』

夏目漱石の中編小説 『野分』 は、明治40年(1907年)に発表された。 本作の冒頭では、主人公の一人、白井道也(しらいどうや)について次のように書かれている。(以下要約) 道也は大学を卒業後、新潟の中学校に教師として赴任する。しかし、ある演説会で…

夏目漱石 『こころ』

漱石後期の傑作『こころ』は、1914年(大正3年)に発表された。 「上 先生と私」、「中 両親と私」、「下 先生と遺書」の三部構成だが、「下」が全体の約半分を占めており、「上」で度々語られる先生の謎めいた発言(伏線)に対して、「下」でそれらが解明さ…

夏目漱石 『行人』

修善寺の大患と後期三部作1910年(明治43年)6月、『三四郎』『それから』に続く前期3部作の3作目にあたる「門」を執筆途中に胃潰瘍で長与胃腸病院(長與胃腸病院)に入院。同年8月、療養のため門下の松根東洋城の勧めで伊豆の修善寺に出かけ転地療養する。…

夏目漱石 『彼岸過迄』

「彼岸過迄」というのは元日から始めて、彼岸過まで書く予定だから単にそう名づけたまでに過ぎない実は空しい標題(みだし)である。かねてから自分は個々の短篇を重ねた末に、その個々の短篇が相合して一長篇を構成するように仕組んだら、新聞小説として存…

『携帯彼氏』

ケータイ小説初体験 ゴールデンウィークだというのに面白そうな映画もやってないしどうしよう、と思っていたのだが、以前から気になっていたケータイ小説を読んでみることにした。携帯彼氏〈上〉作者: kagen,ハナチュー編集部出版社/メーカー: 主婦の友社発…

夏目漱石 『虞美人草』

『虞美人草』は、モーツァルトのオペラに似ている。 主に六人の男女が登場し、派手な恋の物語を展開する様は、『フィガロの結婚』を思わせるし、作中のきっぱりとした善悪の区別、ヒロイン・藤尾と彼女の母親の存在は、『魔笛』のヒロイン・パミーナとその母…

夏目漱石 『坊っちゃん』

新潮文庫版 『坊っちゃん』の巻末の解説に、こんなことが書かれている。 『坊っちゃん』は576字詰原稿用紙149枚(400字詰換算215枚)に執筆された。 執筆期間は1週間前後と推定される。 原稿には消しや直しを行った箇所がきわめて少ない。 『直筆で読む「坊…

夏目漱石 『門』

『門』 は地味な小説である。 『三四郎』、『それから』 に続く漱石の前期三部作の完結編と呼ばれているが、ようするに“『それから』 の、それから”、前作のおまけ扱いである。しかし、本作は決しておまけレベルの小説ではなく、一個の独立した名編として読…

夏目漱石 『それから』

「漱石の小説の中から一番好きなものを一つだけ選べ」と言われたら、あなたはどの作品を挙げるだろうか? 『我輩』? 『こころ』? 『明暗』? だいたいそのあたりに落ち着くかもしれない。 しかし、「好きな漱石作品を二つ(または三つ)選べ」と言われたら…

夏目漱石 『三四郎』

熊本の高等学校を卒業した小川三四郎は、東京の大学に入るため、汽車で上京する。 乗り換えのため名古屋で下車したところ、車中で知り合った女と、なぜか宿屋で同室をあてがわれ、一夜を同衾することになるが、純情な青年、三四郎は当然のごとく、手も足も出…

後日談

読了後、お気に入りブックマーカーのひとに差し上げました。自分探しが止まらない (SB新書)作者: 速水健朗出版社/メーカー: SBクリエイティブ発売日: 2008/02/16メディア: 新書購入: 22人 クリック: 1,118回この商品を含むブログ (306件) を見る

『自分探しが止まらない』を買ったよ

本屋で平積みになってました。

夏目漱石 『草枕』

山路を登りながら、こう考えた。 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。 『草枕』のあまりにも有名な冒頭の一節である。有名ではあるのだが、わかりにくい。難解というほどではないが、わかったような…

夏目漱石 『我輩は猫である』

我輩は猫である。名前はまだ無い。という書き出しで有名な、夏目漱石の最初の小説である。(1905〜1906年発表) 初めてこの本を読んだのは十代の頃だが、奇天烈な登場人物たちの落語風の会話が面白かった。三十代に再読したときは、地の文、即ち「我輩」によ…

読書について考える

「定年退職して自分の時間が増えたら、たくさん本を読みたい」とおっしゃる50代の方々の話を最近よく耳にする。しかし、僕の両親をはじめ、身近な人たちを見ると、60歳を過ぎてから飛躍的に読書量が増えたという例を見たことがないのだ。年齢を重ねると、集…