森田昭子 『島崎こま子おぼえがき』

島崎こま子おぼえがき

島崎こま子おぼえがき

文豪・島崎藤村との愛憎の果てに――
妻籠の名家・島崎家の最後のお嬢様であるこま子。叔父藤村との愛憎関係ばかり取り沙汰されるが、妻籠中学校に教員として赴任した筆者は、こま子と接した思い出から、巷間に流されている虚言を糾すべく、豊富な資料を駆使してこま子の本当の姿を浮かび上がらせた。島崎藤村の研究家にとっても貴重な本といえよう。


 南木曽町博物館館長 遠山高志


 森田昭子 『島崎こま子おぼえがき』 帯紹介文より

著者プロフィール
森田 昭子(もりた あきこ)
1928年、長野県生まれ。
長野師範学校女子部(現・信州大学教育学部)卒業。
神奈川県在住。

 島崎こま子(1893-1973)は、島崎藤村の姪(次兄の次女)であり、藤村の小説 『新生』 のヒロイン節子のモデルとなった人物である。2006年に刊行された本書は、とかく有名作家の醜聞という形で取り上げられてばかりいた彼女について、その生涯を一人の女性の生き方という観点から著した評伝である。

 二、三年前のある日、読んでいた本の中に、藤村と別れたこま子は、左翼活動をして入獄したり藤村に金を借りに行ったり、精神に異常をきたし、藤村が再婚してからも、自分が正妻であると信じ続けて悲惨な生涯を閉じたといったことが書いてある当世活躍している作家の文章に出会い、「違う、違う」と私は突然大きな声で叫んでしまった。
 私の出会ったこま子さんは、凛として知的で静かな中年の女性であった。背のほうから寂しい風が漂うようなところもあったが、品のある口数の少ない方であった。


 森田昭子 『島崎こま子おぼえがき』 あとがき 

 著者は昭和20年代師範学校卒業後に妻籠の中学校に教師として赴任し、そこでこま子に出会っている。その時の印象から、小説やマスコミに書かれているこま子のイメージは実際と異なるのではないかと考え、数十年後に本書を著した。単なる印象論ではなく、さまざまな文献を引用しながら、こま子という一人の女性像を描き出した力作である。
 僕は本書を古書店で入手したのだが、絶版本のためアマゾン・マーケットプレイスでは相当な値段がついているようだ。手元の本の奥付には 「2006年5月10日 初版第2刷発行」 と記されている。自費出版に近い形の書籍なのかもしれないが、豊富な写真等の資料を含んだ立派な著作だと思う。