『武器よさらば』 結末(ねたばれ)と感想を少しだけ

 ヘンリーは、キャサリンと同僚のイギリス人看護婦ファーガスンの二人にマッジョーレ湖畔のリゾートで再会する。マッジョーレ湖はイタリアとスイスにまたがる観光地だが、10月はシーズンオフだ。
 ヘンリーが恋人とホテルで楽しいひと時を過ごしていると、ある夜、官憲が彼を逮捕するために近づいているというタレコミが入る。二人はファーガスンを見捨ててボートに乗り、35キロの距離を一晩中漕いで、国境を超える。波乱万丈の冒険物語はやっと一段落なのだが、ここから先が長くて、まだ100ページくらい残っている。
 彼らはモントルー付近の山荘で翌年の春まで過ごし、さらにローザンヌに滞在する。キャサリンのお腹は次第に大きくなってきている。

「これから揃えなくちゃならないものが、いろいろとあるんだけど」
「というと?」
「赤ちゃんの衣類。たいていの人は、いまのわたしの状態になるまでには、赤ちゃんの用品を揃え終わっているわ」
「きみも買えばいい」
「ええ。あした、買いにいくつもり。必要なものを調べてみる」
「きみならとっくに承知してるんじゃないか。看護師をしてたんだから」
「でも、病院で赤ちゃんをこしらえた兵隊さんなんて、めったにいなかったから」
「ぼくはこしらえたぜ」
 キャサリンは枕で殴りかかってきた。


 ヘミングウェイ武器よさらば』 第五部 第四十章

 ところが、結末は一挙に暗転。赤児は死産、キャサリン帝王切開の末、出血が止まらず亡くなるのである。延々と描かれてきた戦場場面や逃避行とは全く無関係なエンディングなのだ。子供の死を知らされた直後、ヘンリーが過去を回想し、彼の死生観のようなものが語られるくだりはある。しかし、何人かの重要な(はずの)人物、特にヘンリーが最初に負傷したとき、すぐそばで死んだ部下パッシーニのことは忘れ去られたままである。
 ヘンリーはイタリア軍に所属するアメリカ人という設定である。軍を脱走した人間が恋人を連れてスイスへ逃亡するというのが正解なのかどうかよくわからない。スイス滞在中に戦争が終わればなんとかなるだろうと、キャサリンは考えていたようだが、ヘンリー自身はどう思っていたのか。彼は先のことなど考えずに行動してばかりいたのではないか。全てを失った主人公の先が見えないまま、戦争は続くのである。


 部分的に面白い場面はいくつもあるので、そんなに悪い小説だとは思わない。だが、とにかく長い。長すぎて収拾がつかなくなっている。辻褄が合わなくなっているようなところもある。そんな感じの小説だと思った。