スーパー・ヒーロー
ヘンリーは前線に復帰する。だが、戦況は悪化し、兵士たちは疲弊していた。そして、ついに退却命令が下る。ヘンリーは部下とともに退却を開始する。しかし、地元の農民も同時に避難を始めたから道路は大混雑。混乱の中、彼は車両を捨て、部下を失う。さらに、憲兵隊からスパイの嫌疑をかけられ、銃殺される寸前に逃亡。背後に迫る銃弾を避け、大雨で増水した川へ飛び込み、疾走する貨物列車に飛び乗って町へと向かう。
キャンヴァスで覆われた無蓋の貨車の床に、ぼくは野砲と並んで横たわっていた。体が濡れていたし、寒かったし、とてもひもじかった。とうとう寝返りを打って腹這いになり、頭を腕にのせた。膝がこわばっていたが、何の不都合もなかった。ヴァレンテイーニ医師の手術は、いい結果をもたらしてくれたのだ。ぼくは退却行の半分を徒歩でこなし、タリアメント川を彼の膝で泳ぎ渡ったのである。
まさに超人的な活躍ぶりである。しかも、最初の頃に比べて、どんどん強くなっているようだ。(シュワルツネッガーが好きなひとは、第三章から読み始めるといいかもしれない。)また、深酒はしなくなったし、いつの間にかたばこも止めている。
ミラノの友人宅で私服に着替えたヘンリーは、スイス国境に近いマッジョーレ湖畔のリゾート地ストレーザで、キャサリンに再会する。ストレーザにはなぜか昔の知り合いが何人もいる。
「……あなたはどうして戦争にいったんです?」
「さあ、わからないな。馬鹿だったのさ」
「ベルモット、もう一杯いきますか?」
「いいね」
戦時中とは思えない平和な光景が実に不気味だ。