谷崎潤一郎 『青い花』

 大正11年発表の短編。主人公の男、岡田と、18歳の少女・あぐりの物語。『痴人の愛』 (大正13年発表)のプロトタイプのような小説である。主人公の内面の描写が延々と続き、かなり観念的だ。ストーリーらしきものといえば後半、横浜に洋服を買いに行くくだりだけである。

………岡田の頭の中にある「女」の彫像が其処に立った。彼はチクチクと手に引っかゝる軽い絹を、彼女に手伝って肌へ貼り着けてやりながら、ボタンを嵌め、ホックを押し、リボンを結び、彫像の周囲をぐる/\と廻る。あぐりの頬には其の時急に嬉しそうな、生き/\した笑いが上る。………岡田は又グラグラと眩暈を感ずる。………

 洋服店のフィッティングルームで、主人公があぐりに「お直し」の終わった洋服を着せていく結末の部分である。絹を「肌へ貼り着けて」やる、という描写が、フェチ心をゆさぶる。