フローベール 『紋切型辞典』

なにげにフローベール再読中。『三つの物語』と『紋切型辞典』 - がらくた銀河
 フランス文学なんてちっとも読んだことがないのだけど、florentine さんのおすすめ、『紋切型辞典』 を書店で見かけたので最初のページを開いてみた。

アイスクリーム [glace] 食べるときわめて危険。

 もう1行目からノックアウトだった。
 早速購入し、パラパラと捲りながら読んでいるのだが(そういう読み方のほうが楽しい本なのだ)、抜群に面白い項目、丁寧な注釈にもかかわらずさっぱりわからない項目、著者の意図とはかけ離れた21世紀的な意味での面白さをもつ項目などがある。たとえば、以下の項目はどうだろう。

タイツ [maillot] きわめて煽情的。

モザイク [mosaïque] その奥義は失われた。

 「モザイク」 という語から現代の我々*1が連想するのは、タイルを張り合わせた壁画ではなく、夜の奥義を秘すためのアレである。フローベール未来社会の予言者だったのか!? (ひょっとして、翻訳者は狙ってるんじゃないか?)
 また、明らかな“うそ”が多くまざっていて、書かれているような 《紋切型の言い回し》 を批判する目的で書かれたと考えられるものも多い。だが、それでもフローベール先生に騙されてしまいそうな気がする。
 本書はギュスターヴ・フローベール(1821-1880)が1850年代以降に書き著わし、その膨大な遺稿からまとめられ、1910年に出版された 《辞典もの》。原著はアルファベット順だが、翻訳は五十音順に並べ替えられている。「アイスクリーム」 を最初に持ってきた翻訳は実に秀逸だと思う。


紋切型辞典 (岩波文庫)

紋切型辞典 (岩波文庫)

*1:♂。