筒井康隆 『現代語裏辞典』

あいさい【愛妻】 妻のほうは何とも思っていない。その証拠に「愛夫」ということばはない。

エスエフ【SF】 SFマンガ、SFアニメが生れる以前のSF小説のこと。

びよう【美容】 美人には不要。醜女には無用。

 筒井康隆の新刊 『現代語裏辞典』 は上のようなネタが12,000項目も並ぶ辞典(のパロディ)である。アンブローズ・ビアス著 『悪魔の辞典』 を起源とする辞典もので、筒井にとっては 『欠陥大百科』、『乱調文学大辞典』(いずれも昭和45年刊) に続く40年ぶりの新作になる。(筒井は 『悪魔の辞典』 の翻訳も行っている。)
 さて、本書は項目数がやたらと多いため、一つの項目は1〜2行で書かれている。たとえば、「エスエフ」 の項は 『欠陥大百科』 では5ページを費やして延々と書かれ、『乱調文学大辞典』 では5行を割いているが、本書では上に引用したように、きわめて簡潔だ。
 しかし、逆に以前より詳しくなったものもある。

 筒井康隆 『乱調文学大辞典』(講談社文庫版) より

 40年前の本では、「文才」 から 「文脈」 までの項目を一まとめにしてしまっているが、本書では全て一つひとつ解説されている。(これらは敢えて引用しない。面白いので、ぜひご自身で読んでいただきたいと思う。) こういうところ、実に時の流れを感じさせるものがある。
 また、「ルネサンス」 の項は、40年前と同じギャグが用いられている。お笑い用語でいう 「天丼」 である。両方の本をお持ちの方は比較してみていただきたいと思う。


現代語裏辞典

現代語裏辞典

 函入り・ソフトカバー。装丁が素晴らしい。40年前の本には 「この本はジョークですよ」 という意味の序文や後書きがついていたが、今回はそういう断り書きが一切ない。