バッハ 『無伴奏チェロ組曲』 聴きくらべ

 ヨハン・セバスチャン・バッハの 『無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 BWV1007』 から、有名な第1曲 プレリュードの演奏を、YouTube で聴きくらべてみることにする。

パブロ・カザルス(1876-1973)

 1890年、若きカザルスは楽器店で当時全く無名だった 『無伴奏チェロ組曲』 の古い楽譜を見つけた。彼がこの曲を初めて公開演奏したのは1904年。ここまで十数年かかっている。全曲初録音は1930年代に行われ、今でも2枚組 CD で当時の演奏を聴くことができる。

 上の映像は1954年に撮影されたもので、プレリュードは 0:52-2:58 で聴くことができる。
 チェロってこんな音だったの? と驚いてしまうくらいユニークな音である。乾いていてゴツゴツしている。だが、カザルスのバッハは何度聴いても飽きることがない。

ポール・トルトゥリエ(1914-1990)

 フランスのチェロ奏者といえばピエール・フルニエ(1906-1986)が有名なのだけど、演奏している映像が見つからなかったので、比較的近い雰囲気のトルトゥリエの演奏を聴いてみよう。

 小刻みに弓を左右に動かすカザルスに対して、トルトゥリエのチェロは弓を大きくゆっくり動かしている。この演奏法はスラー(なめらかに)と呼ばれるもので、通常楽譜に指定されている。リンク先の楽譜画像でいうと、音符の上に書かれた山型の曲線がスラーを表しているのだが、おそらく使用された楽譜が違うのだろう。全体になめらかでしっとりとした印象のバッハである。

ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(1927-2007)


 ロストロポーヴィチのプレリュードはかなりテンポが速い。弓使いも小刻みだが、ゴツゴツした感じはなくて、むしろリズムに乗って弾いている感じがする。
 彼の CD を持っているのだけど、テンポ速めなのはプレリュードくらいで、他の曲はそうでもなくて、聴きやすい。最近のヘヴィ・ローテーションである。

ミッシャ・マイスキー(1948-)

 この人、京都パープルサンガにいたよね?

 マイスキーのプレリュードは、トルトゥリエ同様スラーが多く、ゆったりとしたテンポで演奏されている。彼のチェロの音にはかなりクセがあるので、好みが分かれるところだが、バッハに関してはアタリだと思う。(サン=サーンスの 「白鳥」 はハズレだった。)

ヨーヨー・マ(1955-)


 上の動画は1997年に発表された音楽と映像のコラボレーションという企画モノらしい。低音を強調した重厚な演奏というのが世評なのだが、よく聴いたらピッチがおよそ半音低いのである。(CD も発売されているのでアマゾンで試聴してみたがやはり半音低かった。)マは1980年代にも無伴奏チェロ組曲を録音していて、そちらのほうはピッチが合っているので、これは楽器のチューニングを意図的に変更しているのだろう。
 美しい映像作品だとは思うが、音楽としては良いのかどうかよくわからなかった。


 というわけで、僕のおすすめは以下の2枚である。

バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)

バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)

バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲

バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲