キース・ジャレット/バッハ 『平均律クラヴィーア曲集』

 ジャズ・ピアニストとして有名なキース・ジャレット(1945-)は、1980〜90年代にかけて本格的なクラシック音楽のアルバムを何枚か発表している。特に、J・S・バッハ(1685-1750)の作品には力を入れていたようだが、同じ頃にバッハをジャズ風にアレンジして聞かせたピアニスト、ジョン・ルイスとは正反対に、全く崩れたところのない(つまりジャズっぽいところがまったくない)演奏を行っている。
 その中でも、『平均律クラヴィーア曲集』 は 『第1巻』、『第2巻』 それぞれ CD 2枚組という超大作で、当時、ジャズとクラシック両方のファンに注目された作品である。

平均律クラヴィーア曲集 第1巻(1987年録音)

 平均律第1巻は、1722年に完成された鍵盤楽器(クラヴィーア)のための練習曲。バッハは息子のために24の 「プレリュードとフーガ」 をすべて異なる調性によって作曲したのである。(楽譜が出版されたのは、作曲者の死後であったらしい。)
 以下の演奏は、『平均律クラヴィーア曲集 第1巻』 より、「プレリュード第1番 ハ長調」、「プレリュード第3番 嬰ハ長調」、「プレリュード第5番 ニ長調」。

 キースのピアノがいかに真剣にバッハに取り組んでいるか、よくわかる演奏といえるだろう。全体にテンポ速め、落ち着きのある、安心して聴いていられるバッハだと思う。
 余談だが、「プレリュード第1番」 にメロディをつけて歌にしてしまったのが、グノー作曲 「アヴェ・マリア」 である。以下の音源は、カーペンターズのアルバム "Christmas Portrait" より、「アヴェ・マリア」。


バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻

平均律クラヴィーア曲集 第2巻(1990年録音)

平均律第2巻は、第1巻の20年後、1742年に完成された。第1巻と同じ構成だが、シンプルな前作に比べて絢爛豪華な雰囲気がただよう作品である。
 以下の演奏は、『平均律クラヴィーア曲集 第2巻』 より、「プレリュードとフーガ第1番 ハ長調」。キースは第2巻をハープシコードで演奏している。

 ピッチが低いなあと思ったら、キース自身が楽器を 「A=431Hz」 に調律したと CD のブックレットに書いてあった。*1
 禁欲的な第1巻に比べて、なんと自信に満ち堂々とした演奏であろうか。ハープシコードチェンバロ)という楽器はピアノと違って、構造上、タッチによって音に強弱をつけることができないのだが、そこのところを逆手にとって、巧みに音を重ね合わせていく。特に 2:25 から始まるフーガの素晴らしさ。これこそ、バロック音楽の醍醐味である。


バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2巻

バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2巻

  • アーティスト: ジャレット(キース),バッハ
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2008/10/08
  • メディア: CD
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*1:ピアノの調律は A=440Hz が基本。バッハの時代には現代よりもピッチが低かったと言われている。