シャイー/マーラー 『交響曲第10番』

Gustav Mahler: Complete Editionより。
 リッカルド・シャイー指揮、ベルリン放送交響楽団演奏。1986年録音。
 『交響曲第10番』 はマーラーの11番目の交響曲。1910年に作曲を開始したが、翌年に作曲者が没したため、未完成となった。5つの楽章からなる構成は彼自身によるスケッチが残されているらしいが、ほぼ完成に達したのは第1楽章のみである。第二次大戦後になって、複数の研究者により補筆され、(しかしあくまでも補筆版として)全曲が演奏されることになった。中でもデリック・クック(1919-1976) による補筆版(1960年初演)は有名で、演奏・録音の機会が多い。
 かつては完成された第1楽章(約25分)のみが単独で演奏されることが多く、CD では 「交響曲第9番」 のカップリング曲として収録されるのが通例であった。今ではクック版の CD も普通に出回っているが、シャイーがこの曲を録音した当時は、全曲録音(約79分)は珍しかったはずだ。
 楽曲はなんといっても第1楽章アダージョが素晴らしい。前作の 『第9番』 で、交響曲という形式をぶち壊し、ジャンルを終わらせてしまったかのようなマーラーが、前作の終りの雰囲気を残しながら、なお前向きに進もうとする意志のようなものを感じさせるのである。
 ただ全曲をとおして聴くと、さすがに長い。クック版に対する評価はよく知らないのだが、マーラーならではの 《毒》 が薄らいでいる気がする。
 なお、グラモフォン全集には、同じくシャイー指揮によるマーラーカンタータ 『嘆きの歌』 が収録されているが、これは全くつまらない。