ル=グウィン 『カワウソ』
『カワウソ』 は 『ゲド戦記』5(2001年) に収録された書き下ろし中編小説。本文180ページ以上あって、5の中では最も長い。
- 原題は "The Finder"。《物さがしの術使い》 という意味。
- 《カワウソ》 は主人公メドラのニックネームなのだけど、この邦題はあんまりだと思う。
- ゲドの時代よりも三百年くらい前の話。ロークの学院(魔法使いの学校)が創設されるまでの物語。
- 4の中で 「魔法使いはなぜ男ばかりなのか」 という疑問が提示され、理由が明かされないままだったのだが、本作では女性の魔法使いがやたらとたくさん登場する。
- 3の終りから4にかけての時代は、世界中から魔法の力が弱まっている頃だった。本作は逆に魔法が非常にたくさん使われ、めまぐるしく展開する。文学的なことを抜きにすると、ファンタジー小説としては一番面白いと思った。
- カワウソはなぜ最初から奴隷制度に反対していたのか不明。
- 家族や友人が奴隷にされたとか、奴隷の一人に命を助けられたとか、そういう描写がなくて、ただ単に反対して、(船大工なのに)奴隷船に細工をするというのは変。
- ル=グウィン作品にしては珍しく、単純な勧善懲悪ものになっている。
- 悪者は全員男。男にもいいやつはいるが、悪い女はいない。
- 女性は極端に理想化されている。
- 女同士の話し合いは絶対に揉めることがないし、恋人が他の女性とべたべたしても嫉妬したりしない。
- 4に続いて、残虐な暴力、虐待の描写が多い。
- 《"手"の一族》 という秘密結社がでてくるのだが、フリーメイソンみたいな感じ。
- ル=グウィンの短編小説はほとんど印象に残らないような作品が多いのだけど、これはインパクト強い。本作も独立した小説として完成されたものではないのだが、シリーズ中の一作として十分楽しめると思う。