アシュケナージ/ラフマニノフ 『ピアノ協奏曲第2番』

 1897年、ピアニスト・作曲家セルゲイ・ラフマニノフ(1873-1943)は極度のスランプに陥っていた。ペテルブルクで行われた交響曲第1番の初演が失敗に終わった後、自信を失いまったく曲を書くことが出来なくなってしまったのだ。意気消沈しモスクワに戻った彼の様子はまるで別人のようであったという。
 彼は著名な精神科医ニコライ・ダーリ(ダール)の元を訪れ、治療を受けることになる。

ダール博士の治療は、暗示を用いたものだった。博士はラフマニノフをアームチェアーに座らせ、半睡状態になったところで、「あなたは協奏曲の作曲を始めます――作曲はたやすく進みます――協奏曲はすばらしい出来栄えとなります」という暗示をかけた。


 アシュケナージ(p)、プレヴィン指揮、ロンドン交響楽団ラフマニノフピアノ協奏曲第2番asin:B000PDZNIQ)解説より

 こうして作曲されたのが、『ピアノ協奏曲第2番』(1900年) である。うそのような話だが本当だ。少なくとも作曲者自身にとっては 《真実》 であったに違いない。果たしてこの協奏曲はダーリ博士に献呈された。
 この話には後日談があって(ソースが Wikipedia なので話半分にしておきたいのだが)、以下のようなものだ。

この曲の初演時、何時までも鳴り止まない拍手を聴きながら楽屋でダーリは「あなたのピアノ協奏曲は・・・」とラフマニノフに話しかけたところラフマニノフは「いや、あなたのピアノ協奏曲です」と返したそうである


 ニコライ・ダーリ - Wikipedia

 ここまでくると、もはや映画化決定である。いや、とっくに映画化されているかもしれない。


 さて、YouTube から第1楽章を聴いてみよう。ヴラディミール・アシュケナージのピアノ、アンドレ・プレヴィン指揮、ロンドン交響楽団の演奏で、1970年録音の音源である。

 映画音楽やテレビドラマにさんざん使われている曲なので、多くの方が耳にしたことがあるはずだ。数年前にはフィギュアスケート高橋大輔がこの曲を使用していたこともある。
 ラフマニノフは身長2メートルの大男だったそうである。手が大きく、ドからオクターブ上のソまで届いたらしい。彼の作品もまた大きな手を必要とする楽曲が多く、難易度が高くなっている。一方、アシュケナージの身長は168センチ。手も小さく、完全に不利なのだが、よく健闘していると思う。彼の安定したピアノ・タッチは、安心して聴いていられるのだ。プレヴィンの指揮も弦の音が実に美しく響いている。今のところ、この曲の CD では一番のお気に入りである。

おまけ

 「ラフマニノフは手が大きい」 というネタをお笑いにしてしまった映像を見つけたので紹介しておこう。Igudesman & Joo というお笑いコンビの演奏で、ラフマニノフが19歳のときに作曲した 『前奏曲嬰ハ短調 「鐘」』。(こっちは浅田真央の曲ですね。)


ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1&2番

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1&2番