ポリーニ/ブラームス 『ピアノ協奏曲第1番』

 マウリツィオ・ポリーニ(1942-)はデビュー前後の経歴がよくわからないピアニストである。
 1960年、18歳のときに第6回ショパン国際ピアノコンクールで優勝し、ルービンシュタインが激賞したというところまでははっきりしているのだが、そのあと10年近いブランクがあり、ルービンシュタインに師事した(その割に全く影響を受けていないようだが)とか、物理学を勉強していたとか、諸説入り乱れているのだ。本格デビューは1968年、初レコード発表は1971年というから、30歳に近くなっていたわけで、かなり遅咲きの音楽家といえるだろう。
 ポリーニは技巧派である。確かな演奏技術をもっており、当たり外れがない。若い頃は演奏がやや単調になる傾向もみられたが、今では完全に巨匠の一人となっている。同年代のマルタ・アルゲリッチとともに、クラシック・ピアノの演奏技術面のハードルを上げた演奏家といって良いだろう。



 上はリハーサル風景の映像。途中、人の話し声が聞こえて、ポリーニがマジ切れしている。さらに、指揮者が足を踏みならしている。リハーサルを邪魔されたら怒るのももっともな話ではあるのだが、相当神経質な人物のようである。


 続いて、2009年の香港のテレビ・インタビューの映像。冒頭に流れるベートーヴェンの映像(1977年)にはカール・ベームの姿が映っている。

 「ショパンを本当に愛していなければ、ショパンを完璧に弾くことはできないんだよ」 という言葉が印象的だ。それから、香港には自前のコンサート・ピアノを持ちこみ、専属の調律師を連れてきたとアナウンサーが語っている。(やることがいちいち極端な人だ。)


 1970年代後半から80年頃にかけて、ポリーニブラームスを集中的に演奏していたようだ。以下の映像は 1978年に NHK交響楽団と共演したときの 『ピアノ協奏曲第1番』 より第2楽章後半と第3楽章。指揮はウォルグガング・サヴァリッシュである。

 2:07 から始まる第2楽章のカデンツァ(独奏)の美しさは感動的である。また、5:00 から始まる第3楽章も実に見事だ。

 ブラームスが25歳のときに作曲したこの協奏曲の荒々しいイメージを覆し、透明感のある音と力強いタッチで最後まで弾ききっている。


ブラームス:ピアノ協奏曲第1番、ハイドンの主題による変奏曲

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番、ハイドンの主題による変奏曲

 CD で聴くなら、カール・ベーム指揮、ウィーン・フィルと共演した1979年録音盤がおすすめ。重厚なブラームスを楽しむことができる。