Miles Davis / Sorcerer

Sorcerer

Sorcerer

 《黄金のクインテット》 によるスタジオ録音、第3作。
 オリジナル LP は全7曲入り。(1)〜(6) が1967年の録音で、(1), (3), (5), (6) がウェイン・ショーター作曲、(2) がトニー・ウィリアムス作曲、(5) がハービー・ハンコック作曲のオリジナル。ついにマイルスは1曲も作曲していない。また、(2) はマイルス不参加のカルテットによる演奏である。
 (7) は1962年録音で、ギル・エヴァンス作・編曲。ボブ・ドローという白人歌手をフィーチャーした2分に満たないヴォーカル曲だが、マイルスとショーターがバックでハーモニーをつけているだけの蛇足的な作品だ。(二人の初共演曲らしい。)
 (8) と (9) は1998年リミックス盤で追加された。(8) は (3) の別テイク。(9) は (5) よりも1週間前に録音された別テイクで、ロン・カーターの代わりにバスター・ウィリアムスがベースを弾いている。
 さて、本アルバムは1998年リミックス盤とそれ以前の旧ヴァージョンの間に決定的な違いがある。新盤は録音時の4トラック・テープをミキシングする段階から、完全に音を作り直しているのだ。旧盤ではステレオの左チャンネルにトランペットとベース、左寄りセンターにドラム、右にサックスとピアノという風に、左右にきっぱりと楽器が分かれ(中央から音が出ない)、深いリヴァーブがかけられて、非常に曇った感じのサウンドになっていた(極端なミキシングのようだが、当時としては普通のやり方である)。ところが、新盤ではピアノが左寄りになっている以外は、ほとんどの楽器がセンターから鳴り響いている。ドラムもステレオになっている。リヴァーブは浅くなり、クリアなサウンドになった。まるで印象の違うアルバムになっている。どちらかというと、"E.S.P." や "Miles Smiles" に近い音、というより、これら2枚の音に近づけたのではないかと思われる。個人的に、新盤のほうが聴きやすいと思うけれども、どうだろうか。
 新盤・旧盤ともに、ベースの音は高音域がカットされて、やわらかい音になっている。(旧盤はベースの音量が物足りない。)
 (9) は、この曲のみ LA 録音のためか、これまた音がかなり違う。ピアノの音が軽くて、おもちゃのピアノみたいな音がする。ベースは力強いピチカートで演奏されているため高音域まで鳴っているが、バランスが小さめでよく聞こえない部分がある。(このテイクは、1981年発表のオムニバス盤 "Directions" に収録されているヴァージョンのほうがベースがゴリゴリと硬い音がする。)演奏自体は (5) のほうがかっこいいかな。
 ちなみに、ジャケットに写っている女性は、女優シシリー・タイソン。マイルスは彼女と1981年に結婚した。