2009-08-15から1日間の記事一覧

大山へ

幸い、直子の怪我はひどくはなかった。しかし、彼女の心の傷は深く、謙作もまた自身を持て余している。 彼は妻に別居を申し出る。鳥取の大山(だいせん)の麓にある禅寺でしばらく修行の心積もりである。 「……なまじ都の風が吹いて来て、里心がついては面白…

大山にて

謙作は大山の麓にある禅寺に滞在している。前篇の頃とは様子が違っているものの、《不愉快》 が時々顔を出すようになり、近所の坊主とつまらない喧嘩をしたり、おかしな夢を見たり、人類滅亡について空想したりしている。一言でいえば狂っているということに…

時任家の事件

結婚後の謙作の家に、立て続けに事件が起こる。妻直子は妊娠し男の子を産むが間もなく病死する。天津に行ったお栄は泥棒に入られて全てを失い帰国して、なぜか謙作たちと同居することになる。謙作がお栄を迎えに行っている間に、直子は彼女の従兄に強姦され…