坂口安吾 『風博士』

諸氏よ、誰人かよく蛸を懲(こら)す勇士なきや。蛸博士を葬れ! 彼を平なる地上より抹殺せよ!


 坂口安吾 『風博士』

 世の中に面白い小説は数多いけれど、面白すぎて何度も読み返してしまう作品というのはそんなに多くはないだろう。『風博士』(昭和6年発表) はそういう意味で稀少な小説の一つである。
 とにかく滅茶苦茶だ。わけがわからない。辻褄が合わない。やたらと風呂敷を広げたかと思えば、煙にまかれたかの如く、あっという間に終わってしまう。手品を見せられたようなものだが、何度読んでも仕掛けがわからない。そこが面白さなのかもしれない。B級特撮映画のようなレトロでほとんどやけっぱちのような面白さもある。


桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

 上の岩波文庫を読んでいるのだけれど、他の小説が重くてグダグダなので、疲れると 『風博士』 を読みなおすというのを延々繰り返している。
 『風博士』 は 『ちくま文学の森 変身ものがたり』 に収録されているのを昔読んだのだが、比べてみたら岩波文庫と微妙に文章が違っていて、岩波のほうがちょっとだけ長い。


 『ちくま文学の森 変身ものがたり』 も今度文庫化されるとのこと。
 『魚服記』、『山月記』、『高野聖』、『人間椅子』、『猫町』、『夢十夜』 など名作を集めたアンソロジーなので、これ1冊でも買う価値があると思う。