ドストエフスキー 『白夜』

「……ねえ、いいこと、あなたのお話はとてもすてきですわ。でもなんとかそんなに言葉を飾らずにお話ししてくださるわけにいきませんかしら? でないと、あなたのお話はまるで本でも読んでいらっしゃるみたいなんですもの」


 ドストエフスキー 『白夜』 第二夜 (小沼文彦訳)

「なんだい?」俺は、甘やかな関心を寄せながら、訊ねた。
「あの、あなたは……」
「なんだい?」
「なんだか、あなたは……まるで本を読んでいるみたいなんだもの」と、女は言うと、その声には再び、どこか嘲笑的な調子が響いていた。


 ドストエフスキー地下室の手記』 II ぼた雪に寄せて 6 (安岡治子訳)

 『白夜』 は1848年に発表された短編小説。一方、『地下室の手記』 は1864年に発表されたものだが、上に引用した箇所は中年の主人公が若い頃を回想している場面である。この二つの小説、ヒロインの性格はだいぶ違うのだけれど、主人公に対する印象がほとんど同じである。というより、主人公はほぼ同一人物といってもよいくらい似通っているのだ。
 ドストエフスキーの小説の登場人物は台詞が長い。延々としゃべっているわりに、まわりくどくて何が言いたいのかわからなかったりする。『白夜』 も例外ではなく、本文が110ページしかないのに、一番長い台詞は9ページもあって改行なしの自分語りが延々続くのである。
 『地下室の手記』 の破壊力には及ばないが、『罪と罰』 のような重苦しさは全くなくて、ちょっとロマンチックな恋愛悲喜劇になっているところが、『白夜』 の面白さなのだろう。主人公は笑っちゃうほどどうしようもないバカなのだが、白夜のペテルブルクで美しい女性に出会ってしまったら、僕だって同じような行動をとらないという自信はないのである。


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白夜 (角川文庫クラシックス)

白夜 (角川文庫クラシックス)