平野謙 『島崎藤村』
- 作者: 平野謙
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2001/11/16
- メディア: 文庫
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本書は島崎藤村をテーマに、昭和13〜31年に書かれた文学評論をおさめたものである。内容は、最初に 「藤村の生涯」*1、続いて 「破戒」、「春」、「家」、「新生」 という藤村の主要な長編小説批評、それからその他の短文という構成になっている。つまり、平野が執筆した年代順ではなく、おおむね藤村の作品の年代順に構成されているのだ。
なかでも、「新生」(昭和21年発表) は藤村が姪との情事を告白した小説について、とことん分析、批判したもので、本書全体の約半分を占めていて、平野自身、「自分ながらうんざりする長ったらしい文章」 だと述べているとおりのものである。大正7〜8年の 『新生』 から30年近く経って、このような大作を発表したのは、一つには藤村が昭和18年に亡くなったこと、もうひとつには終戦によって文学・言論の世界が大きく変化したことが理由として挙げられるだろう。
20年近い歳月を費やして書かれているだけに、藤村論は著者にとってライフワークというべきものである。今読むとさすがに古臭いと思わざるをえない箇所も多い。作家および周辺の実在の人物と小説の登場人物を同一視しすぎている、その割に、(当時)存命中の関係者への取材が全く行われていない、といった問題点もある。しかし本書は、作品を通じて作家を論じるという文学評論の一つのひながたとなっているのではないかと思う。