泉鏡花 『森の紫陽花』

 千駄木の森の夏ぞ晝(ひる)も暗き。此處の森敢(あへ)て深しといふにはあらねど、おしまはし、周圍を樹林にて取卷きたれば、不動坂、團子坂、巣鴨などに縱横に通ずる蜘蛛手の路は、恰(あたか)も黄昏に樹深き山路を辿るが如し。


(中略)


 玉簾(たますだれ)の中もれ出(い)でたらんばかりの女の俤(おもかげ)、顏の色白きも衣(きぬ)の好みも、紫陽花(あぢさゐ)の色に照榮えつ。蹴込(けこみ)の敷毛(しきげ)燃立つばかり、ひら/\と夕風にさまよへる状(さま)よ、何處(いづこ)、いづこ、夕顏の宿やおとなふらん。


 泉鏡花 『森の紫陽花』 (明治三十四年)

 これって、森ガールですよね。