島崎藤村とロダンとダンテ

当時の文学者はみな読んでいるものでしょうか? ロダンといい、藤村は彫刻が好きなのでしょうかしら? 『新生』という書物があるので、ダンテが好きなのだとは察しがついたのですが、あたってますか?


 isozakiaiの呟き置き場(旧:愛のカラクリ、AI日記) モーゼの頭にある角は?(昨日のつづき)

 こんな記事が書かれていたので、ちょっと調べてみました。

ロダン

 藤村が彫刻好きだったかどうかはわかりませんが、彼はフランス滞在中にロダンの弟子に会っています。

……私はその美術家仲間でも一番古参な稲垣君という人にも逢った。稲垣君はロダンのアトリエで彫刻の手伝いをしている人で国を出てから七、八年にもなるという。


 島崎藤村 『エトランゼエ』(大正11年刊)

 「稲垣君」 は稲垣吉蔵(1876-1951)という新潟出身の彫刻家で、明治39年に渡仏後、フランスに帰化しています。(http://murakami21.com/i2001no1/page18.htm 参照。)

ダンテ

 こちらは小説 『桜の実の熟する時』 から。
 舞台は明治23年頃の明治学院寄宿舎。岸本捨吉のモデルは藤村、菅は戸川秋骨、足立は馬場孤蝶です。この3人含めて数名が足立の部屋に集まっています。

……静かな窓のところへ菅は腰かけて、
「岸本君、君に見せようと思って持って来たよ」
 と風呂敷包の中から一冊の洋書を取出して見せた。
「買ったね」
 思わず捨吉は微笑んで嬉しげな友達の顔を見た。ダンテの『神曲』の英訳本だ。捨吉は友達の前でその黒ずんだ緑色の表紙を一緒に眺めて、扉を開けて行くと、『神曲』の第一頁がそこへ出て来た。長い詩の句の古典らしく並んだのが二人の眼を引いた。
「まだ読んで見ないんだが、一寸開けたばかりでも何だか違うような気がするね」と菅は濃い眉を動かして、「多分、君の買ったのと同じだろう」
「表紙の色が違うだけだ」
 と捨吉は答えてそれを足立にも見せた。若い額はその本に集った。


 島崎藤村 『桜の実の熟する時』 五

 買ってきたばかりの本を開くときのわくわくする感じがいいですね。それにしても十七八の学生がダンテの英訳本を読もうとするなんて、ずいぶん背伸びしていると思うのですが、藤村はちゃんと通読したそうです。(この話は随筆に書いてあったと記憶しますが、どの本だったか忘れました。)
 藤村の小説 『新生』 は最近、古本を入手したので、今度読みたいと思っています。