島崎藤村 『春』

春 (新潮文庫)

春 (新潮文庫)

 『春』 は明治41年朝日新聞に連載された小説である。『春』 の直前に同新聞に連載されたのが、夏目漱石の 『坑夫』だったのは不運というべきだろうか。どちらの作品も、主人公が恋愛関係で悩んだあげく、家出している最中の話なのだ。完全にネタがかぶっている。しかも、先行の漱石作品は、恋愛小説のパロディのような小説なのである。『春』 は藤村が長年温めてきた自伝的小説だが、これは藤村先生、不利としかいいようがないだろう。
 さらに、『春』 の後に連載されたのが、同じく漱石の 『三四郎』 である。この時点で勝負がついている。
 とはいうものの、『春』 は面白いのだ。