重松 清 『愛妻日記』

 『愛妻日記』 は、夫婦の性と愛欲を描いた連作短編集である。
 主人公は全て30〜40代のいわゆる倦怠期を迎えた夫婦であり、全6編とも夫である男性の一人称によって描かれている。また、主人公の妻がセックスに関して罪悪感を持っていたり、何らかの性的なトラウマを抱えているのも共通点だ。
彼らは、言葉責め・羞恥プレイ、野外SEX、手錠、バイブなどを使ったプレイ、会員制クラブで合意の上での輪姦といった“アブノーマル”なやり方で、自らの性を解放して行く。しかし、夫と妻の間の行いであるため、社会的に何ら後ろ指を指されることがない、という点が、この作品集のユニークな点であり、保守的なところでもある。
 ただし、一作だけ例外がある。「煙が目にしみる」という作品では、子供の頃に強姦された経験のある妻をトラウマから解放するため、援助交際をやっている女子中学生を拘束し妻に犯させるというエピソードが書かれているのだ。小説としては面白いかもしれないが、やっていることは犯罪である。他の作品が“非合法”に拘っているのに比べると、本作のみやや浮いていると思わざるを得ない。

 本書を読んで、僕は「お前は俺か!?」と思うほど、主人公の男性に感情移入してしまった。それくらい、心理描写が深く描かれているのである。
 本書に登場するさまざまなプレイは、AV やインターネットの普及により、既に情報としては目新しさのないものばかりである。しかし、作家・重松清が書こうとしたのは、アブノーマルなセックスそのものではなく、それによって解放されて行く“夫婦の姿”なのだ。

最後に、本書を僕に紹介してくれたのは、僕の妻であることを記しておきたいと思う。

    • -

10月10日追記。
『ソースの小壜』『煙が目にしみる』〜重松清原作「愛妻日記」より〜
本書収録の6編が映画化され、現在、相次いで上映中である。
夫婦で見てみたいと思うのだが、どうだろうか。

愛妻日記 (講談社文庫)

愛妻日記 (講談社文庫)