Miles Davis / In A Silent Way

In a Silent Way

In a Silent Way

 1969年のスタジオ・録音盤。8人編成のうち4人が白人ミュージシャンであり、黒人音楽の要素を極力排した異色の作品である。
 全2曲入り。(2) の冒頭と最後の部分がタイトル曲で、ジョー・ザヴィヌル作曲。ほかはマイルス作曲。(1) の全部と (2) の中間部分はシンプルな8〜16ビートが延々と続く。
 (1) は18分14秒の長さだが、冒頭の6分間と最後の6分間は同じ演奏、同じテイクが編集によって再使用されている。また、(2) も同様に19分54秒の演奏のうち、最初と最後の4分間ずつのタイトル曲の部分は、まったく同じテイクが用いられている。(ノイズまで同じなのだから間違いないだろう。)これは、プロデュースを手掛けたテオ・マセロによるテープ編集によるもので、レコード収録にあわせて短い演奏を引き延ばしたと考えられる。(逆にカットされた部分もあるようだが、なぜこんなことをしたのかよくわからない。)
 なにしろ45年前の歴史的録音であり、とっくの昔に名盤としての評価が定着してしまっているのだが、僕はこの単調なアルバムが好きではない。
 2002年発売リミックス盤*1 は、楽器の音が非常にクリアになっていて、きれいなステレオ・サウンドである。先にこのヴァージョンに親しんだリスナーは、旧盤のモヤモヤした音を聴いたらがっかりするのではないだろうか。リミックス盤のライナーノートに 'definitive edition' (決定版)と書かれているとおり、非常に優れたミキシングだと思う。
 さて、好き嫌いは別にして、リミックス盤を聴いて気づいたことをいくつか挙げておきたい。

  • (1), (2) ともに冒頭のヒスノイズが、旧盤に比べて大きくなっている。しかし、ノイズがほとんど聞こえない箇所もある。ひょっとしたら、これは磁気テープ特有のヒスノイズではなく、ギター・アンプやオルガンのスピーカーから出ているのかもしれない。
  • ジョン・マクラフリンのギターの音は、ピッキングのニュアンスまで再生されるようになった。延々とチューニングしているみたいなギターである。もちろん、わざとそういう風に演奏しているのだが、音質が良すぎておかしなことになっている気がする。
  • ハービー・ハンコックチック・コリアのエレピは、二人ともローズ・ピアノ使用だが、どっちがどっちだかわからない。
  • ザヴィヌルはエレピではなく、オルガンのみ弾いていると思われる。
  • トニー・ウィリアムスは、(1) ではハイハットのみ叩いているのかと思っていたが、ときどきバスドラムの音が聞こえる。
  • 同じくトニーは、(2) の中間部分のほとんどでスネアのリムショットハイハットを叩いている。シンバル、スネア、バスドラムを使っているのは、後半の1分半のみ。(演奏に抑揚がなく、盛り上がりに欠けるのはドラムのせいだと思う。)
  • (2) の冒頭で、ボーーーーッと鳴っている低音は、デイヴ・ホランドのベースのアルコ(弓弾き)であった。(オルガンかと思っていた。)
  • ウェイン・ショーターは本作ではソプラノ・サックスのみを吹いている。(本作以前のセッションでもソプラノを演奏しているのだが、発表順でいうとこれが最初。)(1) は、ライヴのときなどと違って、彼のソロが始まっても他のメンバーは完全に無視して、単調なリフを続けているように聞こえる。ソロの内容もいまいち。(2) はソロが始まる直前のところに編集の形跡がある。
  • (1) の4:26と16:23の2か所、マイルスのソロのところでチャリーンというかなり大きな音が聞こえる(同じテイクだから2回聞こえる)のだけど、何の音か不明。旧盤を聴きなおしてみたらかすかに聞こえていたが、気づかなかった。
  • マイルスのソロはさすがに良いと思うのだけれど、うーん、やっぱり短いよなあ。

*1:'Mixed On September 26 and 27, 1999' と記載されている。