Miles Davis / Someday My Prince Will Come

Someday My Prince Will Come

Someday My Prince Will Come

 当時のレギュラー・クインテットに、前年に退団した John Coltrane (ts) が2曲のみ参加しているスタジオ録音盤。マイルスの音楽はシリアスな緊張感が漂っているものが多いのだが、ときどき本アルバムのようなリラックスして楽しめる作品があって、うれしい。
 オリジナル LP は全6曲入り。1999年にリミックスされたコロンビア/レガシー盤は2曲追加されている。
 (1) はディズニー映画『白雪姫』の挿入歌として有名なジャズ・ワルツ。ポール・チェンバースウィントン・ケリーの美しいイントロに続いて、マイルスが吹くテーマとソロの素晴らしさ。後半に登場するコルトレーンも非常に良い。
 (3) は後に "No blues" と改題され、繰り返し演奏されるようになったミディアム・テンポのブルース。マイルスもノッているが、リズムが良い。チェンバースのベースの重低音は、この年代の録音としては最高の出来である。
(5) はコルトレーンのテナー・ソロをフィーチャーしたスパニッシュ・モード曲。作曲者名のクレジットはマイルスだが、完全にコルトレーンを意識した演奏になっており、ジミー・コブのドラムもコルトレーン楽団のエルヴィン・ジョーンズ風だ。
 と、ここまで1曲おきに書いてきたが、実は偶数番目に収録されている5分前後のスロー・バラードが、いずれも素晴らしいのである。マイルス・グループのスタジオ録音作は "Kind Of Blue" (1959年録音)におけるビル・エヴァンス (p) の評価が高すぎて、後任のピアニストは苦労したと思うのだが、本作の3つの小曲では、ウィントン・ケリーエヴァンスに負けない演奏を残していると思う。
 もう一人のテナー奏者ハンク・モブレーは名盤を多数残している時期のはずだが、いつものメリハリの効いた演奏ではないため、本作では評判を落としている。しかし、重く湿った音で、静かにフレーズを繋いでいく彼の演奏は、本作に欠かせないものとなっている。
 追加曲の (7) アップ・テンポのブルース・ナンバー。同じテイクの演奏が1980年発表のオムニバス盤 "Circle In The Round" に収録されている(なぜかフェイドアウトで終わる)が、こちらのヴァージョンのほうが1コーラス長くエンディングまで途切れず収められている。なお、この曲のみフィリー・ジョー・ジョーンズがドラムを叩いている。
 (8) は (1) の別テイク。コルトレーン不参加で演奏時間も短く、アルバムとしては蛇足にすぎない。