Herbie Hancock / Maiden Voyage

Maiden Voyage

Maiden Voyage

  • 1965年3月17日録音。
  • Freddie Hubbard (tp), George Coleman (ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)
  • 1965年1月に、マイルス・デイヴィスは "E.S.P." を録音した後、体調不良のためしばらく活動を停止する。このため、グループのメンバー、ウェイン・ショーターハービー・ハンコックトニー・ウィリアムス等は、それぞれリーダー・アルバムを発表し、結果的に65年は後に 《新主流派》 と呼ばれる彼らのスタジオ・ワークにとって最大の当たり年となった。ハービーのブルーノート第5作、"Maiden Voyage" (邦題『処女航海』)はこういう状況の中で作られ、彼の60年代を代表する作品となったのである。
  • ジョージ・コールマン(1935〜)は、63〜64年にマイルス・デイヴィスクインテットに在籍したテナー奏者。ウェイン・ショーターと比較されることが多く、不利な立場だが、速いフレーズを丁寧に吹く演奏スタイルは本アルバムでは効果を上げている。ところが、コールマンと他のメンバーはこれ以降、共演作が1枚もないのである。そればかりか、他のメンバーは70年代以降、何度も再会セッションやライヴを行っているのに、コールマンだけお呼びがかからないのだ。*1

(ジョージと他のメンバーとの間には、それからかなりあとになってもまだ憎しみの感情が残っていたという事実を示す逸話を、複数のミュージシャンが語ってくれた。ヴィレッジ・ヴァンガードで記念パーティーが開かれた際、ハービー、ロン、トニーはトリオを再結成した。すると、バックステージにジョージ・コールマンがホーンを手に現れた。旧交を温め合おうというジョージに対して、ハービーの返事はひと言「あり得ないね」だった。普段のハービーの性格からはとても考えられないほど、冷たい態度だったという)。


 ミシェル・マーサー 『フットプリンツ 評伝ウェイン・ショーター潮出版社

  • ハービーたちとコールマンの間に何が起こったのかわからないのだが、『処女航海』を聴くかぎり、たとい音楽的な意見の相違があったとしても、少なくとも演奏の上で、後に何十年もわだかまりを残すような問題が起きたとは考えられない。それくらい、本アルバムは全員の演奏が素晴らしく、またバンドとしての統一感も十分に感じさせる出来なのである。(音楽とは関係のないトラブルがあったのだと思う。)
  • (1) "Maiden Voyage" は、難解になりがちなハンコックの曲の中では、非常にシンプルであり、強いインパクトを持った名曲。
  • (2) も、(1) とともに後年 V.S.O.P. クインテットで何度も再演された名曲である。
  • (5) は魅力的なメロディを持った佳曲。実に聴きどころの多いアルバムだと思う。

*1:ロン・カーターは、2002年に行われたマイルス・デイヴィス・トリビュート・ライヴで、ジョージ・コールマンと共演している。