『人間の土地』 に登場する飛行機

『夜間飛行』に登場する飛行機 - 蟹亭奇譚の続き。

一九三五年 (中略) パリ=サイゴン間の飛行記録を更新するためル・ブールジェ飛行場を出発するものの、リビア砂漠に不時着する。ベドウィン遊牧民に救われて奇蹟的に生還。


 『人間の土地』(新潮文庫) 巻末年譜

 どうしてぼくらが生きていたものか、説明がつかない。


 サン=テグジュペリ 『人間の土地』 7 砂漠のまん中で 3 (堀口大學訳)

 「砂漠のまん中で」 はサン=テグジュペリと機関士プレヴォーがリビア砂漠における墜落(不時着ではない)から生還までを記した貴重な記録である。このとき、彼らが乗っていた飛行機はコードロン社製の C.630 シムーン(“砂漠の熱風”の意)であった。


 CAUDRON "SIMOUN" UTILITY PLANEより画像引用。小池繁夫氏によるイラスト。

 1930年頃の郵便飛行に用いられた複葉機とは大きく異なり、小型単葉、航続距離が大幅に伸びている。洗練された外観はスポーツカーのようなデザインだ。
 しかし、彼らのシムーンには致命的な装備の欠陥があった。無線機を搭載していなかったのである。
 雲で覆われた夜間飛行。無線機がないため、周囲の気象がわからない。気圧がわからないため、高度計も役に立たない。そういった状況で、シムーンは砂漠の丘の斜面に突っ込んだのであった。

 


 http://pliocena.com/ticket/saint/album2.htmlより画像引用。

 奇蹟的に生還したサン=テグジュペリは、1938年、2機目のシムーン南北アメリカ縦断飛行に挑んだが、グアテマラで離陸に失敗、機は墜落し、重傷を負う。


 飛行機野郎は懲りないのである。通信(郵便)、貨物・旅客輸送といった民間航空業の当初の目的から完全に逸脱し、ひたすら記録更新のため、彼は飛んでいる。いや、記録云々ではなく、単に飛びたいから飛んでいるとしか思えないのだ。
 このような命知らずの精神(スピリット)は、のちの 『ライトスタッフ』 へ、『アポロ13』 へとつながって行くのである。


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