パパパパーン詰め合わせ

 パパパパーンというだけで何の曲かわかってしまう名曲がある。僕も人前で弾いたことがあるし、弾いてもらったこともある。あの曲、何ていうんですか? とよく聞かれるのだが、メンデルスゾーン作曲 『結婚行進曲』(1843年完成) のことである。
 ここでパパパパーンの原曲を聴いてみよう。

 パパパパーンはトランペットが吹いている。教会の結婚式では新郎新婦退場のときに演奏することが多いけれども、だいたい中間部はカットして最初の部分だけ何度も繰り返すのだ。何しろ、新郎新婦に続いて牧師、親族、参列客の全員が退場し終わるまで、延々と弾きつづけるのだから結構長いのである。


 ところで、このパパパパーンは19世紀のウィーンではだいぶ流行ったらしい。ブラームスも20歳の頃にパパパパーンを作曲している。

 「スケルツォ」 とだけ呼ばれるこの曲は、シューマンが友人二人と共作したヴァイオリン・ソナタの一部分で、ブラームスは第3楽章だけを作曲している。冒頭のパパパパーン以外、メンデルスゾーンとは全く共通点はないのだが、パパパパーンに関してはほとんどそのまんまである。そもそもパパパパーンというフレーズ自体、メンちゃんのオリジナルかどうかわからないし、ひょっとしたら共通の元ネタ的な音楽が存在したのかもしれない。そうでないとしたら、「スケルツォ」 はメンちゃんの華麗なパロディということになるのではないだろうか。
 ブラームスメンデルスゾーンが嫌いだったらしい。ブラームスの伝記を読むと、メンちゃんの悪口ばかり書いてあるのだ。しかも音楽的にどうのこうのではなく、性格が悪いとかそういうレベルの話である。*1 ブラちゃんだって、(特に女性から)相当嫌われていたようなので、どっちもどっちのような気がするのだが。


【訂正】
 申し訳ありません。三宅幸夫著 『ブラームス』(新潮文庫)を確認したところ、ブラームスと仲が悪かったのはフランツ・リストとアントン・ブルックナーでした。それからブラームスが1853年に 「スケルツォ」 を作曲したとき、メンデルスゾーンはすでに亡くなっていました。訂正いたします。三宅幸夫さま、そしてブラームスおよびメンデルスゾーン関係者のみなさま、謹んでお詫び申し上げます。


 それから50年後、20世紀初頭のウィーン文化は、さらにパパパパーンをこじらせて行く。以下はマーラー作曲 『交響曲第5番 第1楽章』 より。

 この楽章には 「葬送行進曲」 という副題がつけられている。結婚行進曲から60年経っているんだから大往生じゃないかと言いたいところだが、それは違う。この作品はマーラーが結婚して最初に完成させた交響曲だったのだ。ああ君の人生はつらかったんだな、よし今夜はとことん飲もう! パパパパーン! という気持ちになってくる。


 だんだん暗くなってきたところで、口直しに明るいパパパパーンを聴いておきたい。ちょっと懐かしい感じだが、加藤ローサのゼクシィの CM のパパパパーンである。


マーラー:交響曲第5番

マーラー:交響曲第5番

*1:参考文献:三宅幸夫ブラームス』 新潮文庫