ヴァージニア・ウルフ 『灯台へ』

 イギリスの女性作家、ヴァージニア・ウルフ(1882〜1941)が、1927年に発表した長編小説 『灯台へ』 を読んだ。
 (僕が読んだのは、上の画像の、古書店で手に入れた昭和31年刊行の新潮文庫版。表紙は旧字体だが、本文は新字体で書かれている。)

 スコットランド西部(大西洋側)にあるスカイ島を舞台に、別荘に住むラムジー(ラムジイ)夫妻と8人の子供たち、夫妻の友人・知人が登場する。
 小説は3部構成になっている。全体の半分以上を占める第1部は、ラムジー夫人が6歳の息子ジェームズを連れて、別荘から望む小島の灯台を見に行く前日の話(悪天候のため中止となる)。 第3部は、ラムジー氏が娘のカムとジェームズを連れて、小舟に乗って灯台へ行く話となっている。
 問題なのは第2部で、わずか20ページ程度の長さなのに、10年の歳月が流れ、ラムジー夫人と子供たちのうち二人が死ぬ。まるでビデオテープの早送りのような超展開なのだ。(ちょうどこのあいだに、世界大戦をはさんでいる。)

意識の流れ - Wikipedia

 本作のキーワードは、“意識の流れ” である。
 何の説明も紹介もなしに、いきなり複数の登場人物の心理描写から始まる(そして最後までそれが続く)ため、最初はとっつきにくいのだが、読み進めるうちに人物や人間関係などがちゃんとわかる仕組みになっている。そして、最後は感動する。

 登場人物も、一人ひとりが実に魅力的だ。特に、スポットライトを浴びるラムジー夫人とリリー・ブリスコウ(素敵な名前だと思いません?)という二人の女性の、対照的な生き方が深い印象を残す。

 1927年といえば、日本では芥川龍之介が 『歯車』 を書いた年にあたる。それまでにないぶっ飛んだ小説が、世界的に多く書かれた時代だったのかもしれないと思う。