グーグーだって猫である
大島弓子のマンガというのは、ある年代の女性に圧倒的に支持されていたことがあって、ほとんど誰もが読んでいるというか、作品の好き嫌いは人それぞれだけど、とにかく読んでいないとお話にならないみたいな、そういう時期がかつてはあったような気がする。(もちろん、我が家の本棚にも 『綿の国星』 はある。)
公開中の映画 『グーグーだって猫である』 は、思春期にそういう経験をしたことのあるひとたちのためのものであって、大島マンガを読んだことがなかったら、さっぱりわからない作品かもしれない。本作は大島弓子の原作である漫画エッセイを映画化した、というよりは、映画を通じて一人の少女漫画家について語ろうとしたものになっているからだ。
主演の小泉今日子はかつて 『子猫物語』 という映画でナレーションをつとめたことがあるが、ああいう動物映画を期待して見に行くとがっかりする。登場する猫たちはかわいいんだけどね。
冒頭、15年間飼い続けたメス猫サバが死ぬ場面は泣ける。映画が始まって最初の10分で泣いたのは初めてである。(原作を読んだときも、最初の2ページで泣いたんだった。) 大島弓子のマンガには、猫が人間の姿で描かれるものが多いが、あの表現を映画ではどんな風にやるんだろう、と思っていたのだけれど、そうきたか! という感じで、サバが少女(15歳の大後寿々花が好演!)となって現れるシーンは素晴らしいと思う。ちなみに、脚本の構想段階ではサバの役は岸田今日子をイメージして書かれていたらしい。それも見てみたかった。
音楽がすごく変だ、と思ったら、細野晴臣だった。
解決しないコード進行に微妙な不協和音。アコースティック・ギターとシンセサイザー中心のいわゆる “癒し系” のサウンドだが、ちっとも癒されない。良いのだかどうかよくわからないのだけど、たぶん悪くはないんだろう。LSTY さんだったら、きっと褒めると思う。
音楽といえば、林直次郎(平川地一丁目の弟のほう)がアマチュア・ミュージシャンの役で出演している。13歳でデビューした当時は神がかり的な美声だった彼だけれど、変声期を過ぎてから声がまったく出なくなってしまい、ちょっとこういう役はかわいそうだと思った。現在17歳だが、この映画を最後に芸能界引退だそうである。
大島弓子が住んでいるという吉祥寺の町並みをきれいに撮っていることもあり、ちょっとしたサブカル回顧録になっているのも、この映画の魅力である。井の頭公園、象の花子、いせや、ハーモニカ横丁……。楳図かずおだって、この街の風景の一つなのだ。
いやあんなのは本当の吉祥寺じゃない! とか、80年代少女漫画の真髄とは! とか、いろいろ語りたい女性がいらっしゃったら、チューハイ飲みながらお話をうかがってみたいものです。ただし割り勘で。
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