Miles Davis / Live at The Fillmore East (March 7, 1970) It's About That Time

Live at The Fillmore East (March 7, 1970) It's About That Time

Live at The Fillmore East (March 7, 1970) It's About That Time

 《フィルモア》というコンサート・ホールは二つ存在した。片方はニューヨークの 《フィルモア・イースト》、もう片方はサンフランシスコの 《フィルモア・ウェスト》 という名称だった。いずれもプロモーター、ビル・グラハムによって1968年に開設され、1971年に閉鎖されている。《フィルモア》は「ロックの殿堂」と呼ばれ、ジミ・ヘンドリックスオールマン・ブラザーズ・バンド、ジェファーソン・エアプレイン、ジョン・レノン等々、当時の人気アーティストが毎晩ステージを賑わせていた。
 本アルバムは、マイルスがフィルモア・イーストに初出演した1970年3月6〜7日のうち、2日目のステージの演奏を収録した2枚組ライヴ盤。以前からブートレッグが出回っていたらしいが、2001年にソニーから公式に発売された。
 ロック専門のコンサート会場に、ジャズ・ミュージシャンが殴り込みをかけた、という話になるのだが、2日間のメイン・アクトはニール・ヤング&クレイジー・ホースである。マイルスは前座扱いだったのだ。*1 ニール・ヤングとは客層が違うんじゃないかと思うけれども、昔のロック・ファンはジャンルにこだわらずに何でも聴いたから、意外と平気だったのかもしれない。
 さて、3月7日のステージは 1st セットと 2nd セットに分かれていて、それぞれ約45分が CD 1枚ずつに収録されている(このため、何曲か重複している)。メンバーは 《ロスト・クインテット》 にパーカッション奏者のアイアート・モレイラが加わった6人編成だが、69年のクインテットに比べると、デイヴ・ホランドはエレキ・ベースを弾いているし、全体にロック色が強い演奏になっていると思う。
 CD 1-(1) はフェイド・インで始まって早々、ホランドのベースのものすごいリフにやられる。チック・コリアのエレピはリング・モジュレーターがかけられて、歪んだ音を出している。また、この日はウェイン・ショーターが参加した最後のステージだったとのこと。しばらくやる気のなさそうだったショーターも、今夜ばかりはと燃えているようだ。
 CD 1-(3) は冒頭のテーマに、ものすごいブレイクがあって驚く。マイルスはハイトーンを連発して、ほとんど絶叫調だ。
 CD 2 は前半にくらべて、かなり前衛的な演奏が続く。演奏終了後、司会者のビル・グラハムが "Miles Davis Quintet!!" と言っているのが聞こえるんだけど、一人足りないじゃないか。誰か死んだのか。(死んでない。)

*1:スティーヴ・ミラー・バンドの前座だったという説もある。もしかしたら3部構成だったのかもしれない。