Miles Davis / My Funny Valentine

My Funny Valentine

My Funny Valentine

 ニューヨーク、フィルハーモニック・ホール(現在のエイヴリー・フィッシャー・ホール)におけるライヴ録音盤。同日の録音は、アップ・テンポの曲を中心に選曲された "'four' & More" と、スロー&ミディアム・テンポの曲を集めた本アルバムの2枚に分けて発表された。
 全5曲入り。オリジナル LP の時から、A 面30分、B 面33分という演奏時間になっており、アナログ時代としてはおそらく記録的な長時間収録レコードだったと思われる。(その代わり、やや音量が小さめだった。)ステレオ録音で、音質の良さはマイルスのライヴ盤の中でもトップ・クラスといえるだろう。2005年発表のリミックス盤*1 はさらにバランスが良くなり、一つひとつの楽器の細かなニュアンスまで聴き分けられるようになっているので、旧盤を持っているひとは買い換え必須。
 1960〜63年あたりのライヴ盤を聴き続けていると、マイルスのソロはどちらかというとルーティン化していたような感じがするのだが、この64年の演奏は大きく内容が変化している。特に (1) や (3) などのバラード曲では、テーマを1コーラス演奏せず、最初のワン・フレーズ以外全部アドリブで吹ききっているのだ。彼の演奏能力、表現力が頂点に達した瞬間であったのかもしれない。美しいとか素晴らしいとか月並みな言葉では言い表せないような、従来のジャズのイメージを超越した演奏になっているのである。
 ハービー・ハンコックのピアノも、おそらく彼の全キャリアを通じてトップ・クラスの名演といって良いだろう。(3) の終盤近く、マイルス、ハービー、ロンのトリオによるエンディングは何度聴いても魅力的である。

*1:リマスターというだけでなく REMIXED と書かれている。