猫の町、谷中へ猫に会いに行く

 長かった梅雨のあけた翌日、谷中へ出掛けた。
 JR 日暮里駅から谷中霊園を通り、坂の多い街並みをジグザグに下のほうへ降りていくと、そこは猫の町である。

 写真は 「夕やけだんだん」 と名付けられた階段。以前、家人がここを訪れた際は、ちょうど猫の集会が行われていたらしく、十数匹の猫に会ったそうである。だが、真夏の白昼、猫は一匹も見当たらなかった。

 「谷中銀座」 という下町商店街を抜け、根津方面に向かったのだが、どこまで歩いても猫はいない。
 仕方なく、通りすがりの人に案内をもとめることにした。

「すみませーん」
「はい?」

「あの、ここらへんで猫に会える場所、ありますか?」
「あー。よくそういうひと来るんだよね。じゃあ、ちょっとついて来なよ」
 親切な人でよかった。さすがは下町、人情味にあふれている。
 だが、案内のひとは通りをはずれ、どんどん住宅街の中を歩いていく。あたりは蝉時雨が聞えるばかり。周囲に人通りはない。どこかでヒヨドリがぴいと啼いた。
「ここだよ、ここだよ」
 案内のひとは一軒の店に入っていった。


 「ねんねこや」 という看板の下に、わざわざ 「当店猫カフェではありません」 と書いてある。いかにも怪しげな風情だが、ちゃんと営業しているようだ。

 ここは猫料理の店なのか?

「まあ、ゆっくりしていってくれよ」
 案内のひとはすでに店内でくつろいでいる。なんだ。この店のひとだったのか。彼は拓哉さんといって、レジ係をしているそうである。
「いらっしゃいまし」
 そこへ大柄な男が現れた。当店の店長、山根三吉さんだ。三吉さんは挨拶がわりに、僕の股の間を潜り抜けた。

 この店はレストランかと思っていたのだが、中はところ狭しと雑貨や土産物が並んでいる。ワゴンの上にTシャツがあったので、手にとろうとしたのだが、そこには見張りの店員がいた。

 千代子さんという女性スタッフである。彼女の背中にはハート型の模様があるそうなのだが、最初から最後まで熟睡していたため、写真を撮らせてもらえなかった。
「写真撮影は家風による独断と偏見により許可/禁止を決めております。」と書かれているのは、こういう意味らしい。これは仕方ない。
 最近流行りの猫カフェというのは、人間の店員がいて、猫と遊ばせてもらえる仕組みになっている。しかし、「ねんねこ家」 は店員が猫である。確かに猫カフェとは違う。
 僕は雑貨数点を購入し、レジ係の拓哉さんにお金を支払った。

「また来てくれよな」
 拓哉さんは愛想よく応えてくれた。やはり谷中は猫の町だったのだ。

nen-nekoya | Welcome to Another World


● 【営業日のご案内】 ●
 営業日:金曜・土曜・日曜・祝祭日
 営業時間:午前11時30分〜午後6時
 平日は猫雑貨の工房です。営業はしていませんのでご注意下さい。