カルテット・イタリアーノ

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 カルテット・イタリアーノは1945年に結成され、1980年に解散した第二次大戦後のイタリアを代表する室内楽団である。日本では 「イタリア弦楽四重奏団」 と訳されているようだが、英語のレコード・CD や Wikipedia も Quartetto Italiano という表記になっているくらいだから、カルテット・イタリアーノと呼びたいものである。*1
 カルテット・イタリアーノの特徴は明るい音色である。どんなに深刻な曲であっても、一定の安定した明るさを失わないのだ。シューベルトの 《死と乙女》(後述)だって、ヴィヴァルディの 『四季』 みたいに明るいのである。もちろん、明るいといっても弦楽器の音色の話であって、イタリア・オペラ(三大テノールみたいなやつ)にみられる開けっぴろげなものではなく、どちらかというと地道に弦楽アンサンブルを奏でていくタイプの演奏スタイルである。


 35年におよぶカルテットの歴史の終りに近い1979年1月、彼らは初めてピアニストを交えてレコーディングを行った。ピアニストはマウリツィオ・ポリーニ(1942-)。30代後半だから若手とは呼べないが、本格デビューが遅かったため、彼は当時としては新進売出し中のアーティストであった。ポリーニは同じイタリア人でありながら、ドイツ系の作曲家やショパンを得意とし、硬質で厳格な演奏を持ち味とするピアニストである。
 明るくソフトなカルテット・イタリアーノと冷厳なポリーニ。かなり対照的な組み合わせだが、そんな彼らが演奏した曲目はブラームス作曲 『ピアノ五重奏曲 ヘ長調 Op.34』 だった。以下は同曲より第1楽章(音声のみ)である。

 当時、ブラームスピアノ五重奏曲は滅多に演奏されることのない作品であったらしい。ポリーニ&イタリアーノ以前のステレオ録音で有名なのは、1963年のゼルキンブダペスト SQ 盤くらいではないだろうか。79年という時期に、ドイツ・グラモフォンがこのブラームス録音を企画したのは、1977年録音のブレンデルクリーヴランド SQ によるシューベルトの 『ピアノ五重奏曲 《ます》』 がライバルのフィリップスから発売されて大ヒットしたからではないかと思う。そして、イタリアーノたちのブラームスも当たった。内容的には、第2楽章(アンダンテ)のピアノが単調ぎみになっている部分はあるが、全体としては貫録十分の名演奏である。このレコードのあと、ブラームスピアノ五重奏曲室内楽における欠かせないレパートリーとなり、続々と新録音が行われるようになった。
 しかし、演奏者自身はこの録音についてどう思っていたのだろうか。そこらへんがよくわからないのである。なにしろ、翌年にカルテットは解散してしまったし、ポリーニはその後、今日に至るまで室内楽を全く演奏していないのだ。


 ブラームスに続いて、カルテット・イタリアーノが79年10月に録音したのはシューベルト作曲 『弦楽四重奏曲第14番 ニ短調 D.810 《死と乙女》』 だった。
 以下は 《死と乙女》 第1楽章より。(リンクをたどると全曲聴ける。)

 上の演奏だけを聴くとよくわからないかもしれないが、以下の映像と比較すると、カルテット・イタリアーノがいかに明るい音色を出していたかおわかりいただけると思う。

 アルバン・ベルク弦楽四重奏団による 《死と乙女》 である。技巧派で人気の楽団だが、あまりにも鬱々としていて、僕はこういう演奏は好きになれない。
 "Death and the Maiden" なんて英語で書くとヘビメタみたいだが、"Der Tod und das Mädchen" はシューベルト自身が書いた歌曲の題名であり、その前奏部分が第2楽章冒頭に引用されているのである。Wikipedia には 「作曲者が健康の衰えを自覚した直後の、1824年に作曲された。すべての楽章が短調で書かれ、当時のシューベルトの絶望的な心境が垣間見える。」との記述があるが、これはほとんど嘘。実際にはシューベルト1828年11月、31歳のときに腸チフスにかかり、わずか2週間で亡くなっている。『美しき水車小屋の娘』、『冬の旅』 と同様、主人公の死をモチーフにした楽曲が多いのは、彼の作風なのだろう。
 《死と乙女》 を録音した後、80年2月にヴィオラ奏者が脱退したためカルテットは解散。結果的にこの録音が最後の作品となったのであった。


ブラームス:ピアノ五重奏曲

ブラームス:ピアノ五重奏曲

 演奏内容は別だが、ひどいジャケット写真である。服装から考えると、録音当日ではなくコンサートの折に撮影されたもののようだが、ポリーニ以外の男性は横を向き、中央の女性(第2ヴァイオリン)は疲れ切っているように見える。


シューベルト:ピアノ五重奏曲〔ます〕弦楽四重奏曲〔死と乙女〕

シューベルト:ピアノ五重奏曲〔ます〕弦楽四重奏曲〔死と乙女〕

 アルフレッド・ブレンデルクリーヴランド弦楽四重奏団演奏の 《ます》。カルテット・イタリアーノ演奏の 《死と乙女》 は、この CD に収録されている。全く違うタイプの楽曲だけど、どちらも名演奏だと思う。

*1:似たような名前の 「イタリア合奏団」 というのもあるが、そちらは I Solisti Italiani である。