ライスター/ブラームス 『クラリネット三重奏曲』

カール・ライスター(Karl Leister, 1937年6 月15日 - )は、ドイツのクラリネット奏者。世界を代表するクラリネット奏者の一人である。
ニーダーザクセン州のヴィルヘルムスハーフェンに生まれる。11歳の時、ベルリン放送交響楽団(現ベルリン・ドイツ交響楽団)のクラリネット奏者であった父から手ほどきを受けてクラリネットを始める。15歳からおよそ3年かけてベルリン音楽大学で学ぶ。19歳でベルリン・コーミッシェ・オーパ管弦楽団の首席奏者に就任し、22歳でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(当時の音楽監督カラヤン)の首席奏者に就任、1993年まで務めた。


カール・ライスター - Wikipedia

 カール・ライスターというクラリネット奏者の経歴を読むと、早熟の天才で常にトップを歩んできた人のようにみえる。もちろん、そのとおりなのだろう。だが、若い頃から一つのオーケストラに30年以上勤め続けるというのは、ひょっとしたら案外地味な人生なのではないだろうか。毎朝、電車に乗って職場へ通い、子供たちが寝静まった夜遅く帰宅して、妻とワインを飲みながら好きなレコードを聴いて過ごす。「パパのクラリネットは世界一よ!」 理想的な人生のようだが、現実はそんなに甘くない。クラリネットはオーケストラに欠かせない楽器だが、めったに注目されることがないのである。目立つようなフレーズがあっても一瞬で終わってしまう。抜群にかっこいいクラリネット・ソロから始まる 『ラプソディ・イン・ブルー』 だって、演奏終了後に拍手を浴びるのは指揮者とピアニストだけなのだ。そんな生活が30年余りも続くのである。
――Ich habe eine Klarinette.
 ライスターは考えた。クラリネットはもっと目立たねばならぬ。彼はオーケストラ仲間に呼びかけ、室内楽を始めた。モーツァルトウェーバーブラームス室内楽の名曲を演奏する彼らに世界中が喝采を送った。海外公演から帰国した彼を妻が出迎える。
「パパのクラリネットは世界一よ!」


 なあんて、全部うそだけど、そんなことを考えながらライスターのブラームスを聴くのも悪くない。

 『クラリネット三重奏曲』 は1891年、ブラームス58歳のときの作品である。友人たちが次々と亡くなり、彼自身も引退を考えていた頃に出会った一人のクラリネット奏者のために書いた復帰作だ。上の映像(音声のみ)は第1楽章。1997年、ライスターが60歳のときの録音。ハンガリー出身のピアニスト、フェレンツ・ボーグナーと、元ベルリン・フィルの首席チェロ奏者、ヴォルフガング・ベットヒャーが共演している。三人の奏者が対等にバトンを渡していくような演奏で、次第に盛り上がっていくところが素晴らしい。



 こちらは明るい曲想の第3楽章(残念ながらモノラル)。ポロロンとギターをかき鳴らすようなチェロのピチカートが素敵。


 『クラリネット五重奏曲』、『クラリネット三重奏曲』、『クラリネットソナタ1&2番』 というブラームス晩年のクラリネット作品が全部入って、2枚組1,400円というお買い得盤。凝ったデザインの紙ジャケットは一度手にとって見ていただきたい美しさである。ライスターは 『三重奏曲』 を5回も録音しているらしいのだけれど、これが今のところ最新版のはず。何度聴いても飽きない、リラックスできる名盤だと思う。