G・ガルシア=マルケス 『予告された殺人の記録』

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

 自分が殺される日、サンティアゴ・ナサールは、司教が船で着くのを待つために、朝、五時半に起きた。


 G・ガルシア=マルケス予告された殺人の記録

 入院中に再読。殺される男サンティアゴ・ナサールが五時半に起きてから七時に殺されるまでの、たったそれだけの話を作者はどんどん膨らませて行く。時間軸は常に事件の前と後を往復し、時には事件の数十年後の回想まで含まれる。サンティアゴ・ナサールはなぜ殺されたのか。理由、犯人、動機、予告について。語り手の 《わたし》 は数十人に及ぶ関係者への取材を行い、事件の全貌を明らかにしていこうと試みる。
 田舎の村で起こったリンチ殺人事件を扱った小説なら、日本には田山花袋 『重右衛門の最後』 がある。ルポルタージュ形式のミステリなら、宮部みゆき 『理由』 がある。だが、本作(1981年発表)のユニークな点は、《わたし》 自身が事件の起こった町=共同体の一員であり、出来事を半ば内側から眺めているところにあると思う。
 ラテン・アメリカ文学というと、なんとなくハードルが高い気がするかもしれないが、登場人物の多さと構成の複雑さにも関わらず、この小説は読みやすくわかりやすい。一気読みの大傑作である。