ロストロポーヴィチ&ゼルキン/ブラームス:チェロ・ソナタ

 ブラームスはチェロ・ソナタを2曲残している。(本当は10代の頃にもう1曲書いたらしいのだが、彼は20歳以前の作品を全て処分してしまったらしい。)彼のチェロ・ソナタは、チェロとピアノが対等にわたりあう二重奏曲になっていて、ピアノは決して単なる伴奏者に留まらないのが特徴である。
 チェロ・ソナタ第1番はブラームスが30代前半のときの作品。第2番はそれから21年後、彼が4つの交響曲を書き終わった後、50代のときの作品である。

ブラームス:チェロソナタ集

ブラームス:チェロソナタ集

 二人のおじさんが笑っているジャケットが微笑ましい、チェロのムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(1927-2007)、ピアノのルドルフ・ゼルキン(1903-1991) という二人の巨匠によるブラームスのチェロ・ソナタ集(1982年録音)。仲の良い兄弟のように見えるが、当時、ロストロポーヴィチは55歳、ゼルキンは79歳。親子に近い年齢差なのである。

 まるで二人がキャッチボールをしているような第1番第1楽章を聴いてほしい。ロストロ少年が投げる球を、ゼルキン親父はふわりと、しかし正確に投げ返す。少年の球はときに速くときに遅く、直球もあれば変化球もある。父親はどんな球も確実に受け止める。そんな少年と父親が、そのまま何十年も経っておじさんになったような、余裕のあるリラックスした演奏なのだ。これだけ息の合った演奏なのに、実はこの二人、このときのブラームスが初顔合わせで唯一の共演だったのだという。これが巨匠というものなんだろうか。驚きである。


 変わって第2番はずっと激しい曲である。明と暗が複雑に混ざり合った曲調は、よりブラームスらしいといえるかもしれない。二人の巨匠が作りだす音は、オーケストラのように色彩豊かだ。第1楽章のロストロポーヴィチの太くて力強い音。そして、第2楽章で聴かせる優しく柔かな音。ゼルキンもそれらの変化に、見事に応えている。
 何度聴いても飽きない。一生モノのブラームスだと思う。