ショルティ/ベートーヴェン 『交響曲第9番』

 コンパクトディスクの開発の歴史について、以下のような逸話が残されている。

コンパクトディスク - Wikipedia


最大収録時間(約74分)が決まったいきさつについて、開発元のソニーによれば以下の通りである。

開発の過程で、カセットテープの対角線と同じでDINに適合する11.5センチ(約60分)を主張するフィリップスに対し、当時ソニー副社長で声楽家出身の大賀典雄が「オペラ一幕分、あるいはベートーベンの第九が収まる収録時間」(12cm、75分)を主張して、調査した結果クラシック音楽の95%が75分あれば1枚に収められることから、それを押し通した。

その他、カラヤンや大指揮者たちの演奏が絡んでいるという話も流布している。

開発当時、指揮者カラヤンが「ベートーベンの交響曲第九番を収録できるように」と提言した。実際には彼の演奏時間は六十数分である。もちろん指揮者によって演奏時間は変わるが、1951年にライブ録音されたまたはその他のオーケストラとのフルトヴェングラー指揮の交響曲第九番は歴史に残る名演奏とされ、演奏時間も長い(およそ74分)ことや、同時代のウィーン・フィルとべームやバーンスタインの演奏がそれに匹敵する長さであることから、これらの演奏がコンパクトディスクの規格になったといわれる。

この話では、カラヤンがなぜ、フルトヴェングラー指揮による演奏のCD化に対して心配しているのか疑問が残るものの、カラヤンが音楽媒体のディジタル化を望んでいたことは事実であり、他方では大賀がフィリップスを説得するためにカラヤンの名を引き合いに出したという見方もある。

 大賀氏の話はソニー社史に書かれているらしいので本当だが、カラヤンが提言したという部分はちょっと眉つばものである。なぜなら、ベートーヴェンの第九は指揮者や演奏によってかなり演奏時間が異なり、74分を超えるものも多いからだ。もちろん、指揮者によってテンポの速い遅いが生じるのは当然だが、それ以前に演奏している元の楽譜が違うのである。
 サー・ゲオルグショルティ(1912-1997)指揮によるシカゴ交響楽団は、1972年と1986年に第九を録音しているが、前者の演奏時間は76分03秒、後者は74分35秒である。このうち、第2楽章は前者が13分53秒、後者が11分50秒と、2分以上も短くなっているのだが、これは 「5ヶ所あるリピートのうち、長大な二番めのそれを新盤では省略している」 からだと、CD の解説に記されている。(旧盤も省略されている箇所があるらしい。)オーケストラのスコアを見たことはないのだが、全曲を省略せずに演奏したら、80分近くなるのかもしれない。この曲の第2楽章は割と単調なので、省略して正解なのだと思うが、1枚の CD に収録するために楽曲の一部を省略するようなことも行われていたのだろう。(最近の CD は80分くらいまで収録できるようだけど。)


ベートーヴェン:交響曲第9番

ベートーヴェン:交響曲第9番

 1986年のデジタル録音盤。オーケストラ全体が音の塊りとなってぶつかってくるような物凄い演奏。ショルティはソロ楽器奏者にいちいちスポットライトを浴びせたりしない。あくまでも、オケ全体を一つの楽器として操り、強烈な音圧で勝負する。