ようこそマシーンへ

 病院で MRI 検査を受けた。MRI は二度目なので全く不安はなかったのだが、あの閉所恐怖的な検査機器と単調な機械音はどうにも不快である。とにかく大きな音がするので、両耳にヘッドホンを装着する。ヘッドホンからはモーツァルトのピアノ・ソナタが静かに流れている。全身をバンドで拘束され、「万一のときは押してください」 と検査技師から押しボタンのついたケーブルを握らされる。
 検査が始まると、重厚な金属音がボリュームを上げて迫ってくる。もはやモーツァルトは全く聞こえない。ああ、この音はピンク・フロイドの 「ようこそマシーンへ」 だな、と思った。全く嫌な曲である。


 物理的な振動は全くなくて、ただ音のみが聞えている。何時間経ったのだろう。時間の感覚はとっくに消滅しているのに、意識だけがはっきりしている。そんな状態がずっと続いている。音はヘッドホンからではなく、部屋全体から響いているようだ。
 機械音は途中でアップテンポに変わった。ケミカル・ブラザーズだ。


 ヘッドホンからモーツァルトのピアノ・ソナタが流れている。
「終わりましたよ。お疲れさまでした」
 技師がにっこりほほ笑みながら、拘束バンドを外していく。彼はなぜあんなに明るい表情をしているのだ?
 更衣室に戻って腕時計を見ると、ちょうど10分経っていた。


Wish You Were Here

Wish You Were Here

サレンダー

サレンダー