藤村の墓

 木曾路はすべて山の中である。


 島崎藤村 『夜明け前 第一部』 序の章 一

 木曾十一宿の一つ馬籠(まごめ)に行ってきた。
 駐車場に車を停め、石畳の急坂を歩いて登る。両側は民宿や土産物屋の古い建物が並ぶ街道筋である。今年の夏は雨が多く、至る処、川の水の勢いよく流れる音が聞こえる。西澤山 永昌禅寺の標識の案内に従って街道を離れ、さらに深い山の懐へと入って行くと、高い木立の下に、墓碑が立っていた。

 島崎春樹(藤村の本名)と妻冬子の墓碑が並んでいる。後列の墓碑には彼らの子供たちの名が刻まれている。近くには藤村の両親、正樹と縫子の墓もある。蝉時雨が降り注ぐように聞こえている。

夏雲や家族の眠る山の中

 7月の馬籠は平日でもそこそこ観光客で賑わう。しかし、この墓所にはふだん訪れる人も少ないのだろう。ひたすら静かな場所である。


 山の上の墓地から見下ろす馬籠の村は、こんな場所であった。