フィッシャー=ディースカウ/シューベルト 『美しき水車小屋の娘』

シューベルト:美しき水車小屋の娘

シューベルト:美しき水車小屋の娘

 美しいのは水車小屋なのか娘なのか、どっちなんだ?――というおかしな話があるけれども、Die schöne Müllerin という原題のとおり、「水車小屋の娘」 は一語である。
 『美しき水車小屋の娘』 は、『冬の旅』、『白鳥の歌』 と並ぶシューベルトの三大歌曲集のうち、一番最初に作曲されたもので、他の二つと違うのは全編を通じてストーリー仕立てになっている点だ。旅に出た若者が美しい娘に出会って恋に落ち、やがて失恋の末に命を絶つという物語である。もっとも、最初から失恋の旅に出ている 『冬の旅』 に比べれば、かなり明るい印象の曲集ではあるのだが。
 1961年録音当時、30代なかばのフィッシャー=ディースカウは過度の演出を避け、淡々としかし美しく、最後はすべてを包み込むような優しさをもって歌い上げる。
 伴奏のジェラルド・ムーアのピアノは、ゴリゴリとリズムを刻んでいる。ジャズ歌手ビリー・ホリデイの伴奏をやっていたマル・ウォルドロンのピアノもずいぶんゴリゴリとしているが、こういう演奏は名伴奏者に共通するのだろうか。